遺産額が少ないほど相続争いは起こりやすい 普通の人こそ「遺言書」が必要な切実な理由

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「相続リテラシー」が日本より高いアメリカでは、どんな家庭でも「遺言書」を事前に用意するのは当たり前といわれています。私にはアメリカ在住の別の伯母がいますが、その伯母にこの件を話したら「遺言書を書いていないなんて信じられない!」といっていました。欧米化が進む日本ですが、相続については大きく遅れています。

相続は一生のうちに何度も体験するものではありません。しかし、場合によっては大きなお金と思いが動く一大事業です。ですから、ここでは予習をしっかりし本番に備えていただきたいと思います。

実は、相続には「一次相続」と「二次相続」という考え方があります。一次相続とは、夫婦の片方が亡くなり、もう片方が財産を引き継ぐことです。ここでは、そんなに大きな問題は発生しません。親の威厳があるので、子どもたちは従うことが多いようです。また、相続は「法定相続」といって、法律で相続する割合が決まっています。

最ももめるのが「二次相続」のケース

仮に父が亡くなり、母と2人の子ども(姉と弟)が残ったとしましょう。その際、母に1/2、2人の子どもに1/2(一人当たり1/4)が配分されます。とはいえ、主な相続財産が不動産(自宅)の場合、母の住む場所を維持するために、子どもたちが権利を主張することは少ないと思われます。またこのとき、相続税の面でも「配偶者の税額の軽減」というものがあります。これは不動産の名義が夫(妻)でも、夫婦は一緒に助け合って生活をしていて、お互いの財産を作るために大きな役割を果たしていると考えられるからです。

配偶者の控除には大きな優遇枠があり、以下の2つのうち多い方の金額が控除されます。

①配偶者の相続税の税額軽減(1憶6000万円まで)

②配偶者の法定相続分

たとえば、Aさんという資産家が亡くなったとき、相続額は、3億円でした。相続人は妻と子ども。この場合の妻の相続額は、「2分の1」の1億5000万円となります。その際、①と②を比較すると、①のほうが控除額が大きいので、Aさんの妻の控除金額は1億6000万円となります。これだけの財産を相続しても、相続税がかからないのです。平均寿命からすると、男性が女性より先に亡くなるケースが多いですが、夫が先に亡くなっても、残された妻の生活に大きな支障がないように、という配慮からでもあります。

さらに、前記の母と2人の子どものケースで、自宅評価額が5000万円、金融資産で2500万円あったとします。この場合、母親がすべて相続をすれば、相続税はかかりません。

問題は「二次相続」のときです。このとき父親が亡くなった後、母に介護が必要となり、未婚の姉との同居を望んだとします。都会で働いていた姉は仕事を辞めて里に帰り、母の介護をしながら地元で働き、母を看取りました。その間、長男である弟は、仕事があるので東京で妻と娘と暮らしていました。その間、自宅の評価額は4500万円となり、金融資産も1500万になったとします。つまり、相続財産の合計額自体は減り、合計で6000万円の相続です。

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