沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史 佐野眞一著 ~「切れば血が出る」沖縄の戦後史論

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沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史 佐野眞一著 ~「切れば血が出る」沖縄の戦後史論

評者 津田倫男 フレイムワーク・マネジメント代表取締役

 ダイエーの興亡とその創業者である中内Yの功罪を鋭い切り口と膨大な数の関係者へのインタビューを通じて論じた著者による「切れば血が出る」沖縄の戦後史論である。

沖縄は、米軍基地、国境の島、最貧県、タレントなど、どのキーワードを使って解こうとしても複雑で、知れば知るほど新しい発見がある。たとえば、沖縄経済に潜む模合(もあい)という相互扶助のシステム、奄美大島出身者の多さと彼らに対する差別、本土復帰後の与論島(復帰前は日本最南端の島)の今昔、沖縄独立論の現在、山中貞則という政治家と沖縄の深い関係、沖縄にみずほ銀行以外の大銀行が進出しない理由、痔の新薬を発売する地元の女性起業家、米軍兵士による犯罪被害者に対するネットでのバッシングなど、本書で初めて知った。

しかし、企業相手に助言を行うものとして最も参考になったのは、四人組と呼ばれるかつて沖縄経済を牛耳った大物たちとその係累の物語である。政府の手厚い保護によりすっかり助成慣れした沖縄企業が、日本の最南端、すなわちアジアに向けた玄関口に位置しながら、東京よりも近い台北や上海に背を向け、東京や大阪を見つめている現状は、沖縄の琉球王朝以来の開放性とは無縁のもので、本土復帰以降のごく最近の傾向であることを納得した。

いくつかの印象深いエピソードの中でとりわけ興味をそそられたものに以下の三つがある。三線(さんしん)を爪弾くことが好きな著名経営者が事業に失敗した際、彼の父親が「まず建物を売り、次に土地を売り、最後に三線を売りなさい。三線を弾く心のゆとりがあれば必ず再起できる」と三線を買い戻してくれた話。沖縄芸能のライブショーを行う居酒屋の店主が、沖縄音楽が本土で浸透しないことに対して「もっとアジアを意識したらいいんじゃないかと思います。東京の方ばかり目を向けないで」と語った言葉。度重なる米軍兵士による沖縄県民に対する暴行陵辱に、市民が憤りをストレートに表現した「彼らはゲートで守られています。ところが私たちは、地域にカギをかけることはできない」と訴えたこと。

何十回にも及ぶ渡航と400人に及ぶ取材を通し、沖縄を「命知らずの無法者たちに牛耳られた暗黒街ではない」と弁護しつつ、「善意も悪意も混沌の闇の中に引きずり込んで溶かし込む、蟻地獄にも似た貧しくも豊かな楽園」と表現する本書から、沖縄に深くのめり込んだ大和人(ヤマトンチュー)の哀痛が伝わってくる。沖縄問題は、米軍基地に始まり、米軍基地に終わるとも言われるが、本書を読んで改めてその思いを強くした。

さの・しんいち
1947年東京生まれ。早稲田大学文学部を卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。97年、『旅する巨人-宮本常一と渋沢敬三』で、第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。

集英社インターナショナル 1996円  654ページ

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