松尾貴史"権力者モノマネ"がスカッとする訳 最初ムカつくが、次第に溜飲が下がってくる
松尾貴史 様
今回、勝手に表彰させて頂くのは松尾貴史さんである。
松尾さんは僕が放送作家幼生期からいろいろと親しくさせて頂いている方なので、あらためて褒めるのも照れくさく、ここに取り上げるのは避けてきた。鮫肌文殊さんも同じだと思う。鮫肌さんにいたっては、松尾さんは彼を東京に呼んでくれた恩人なのだから。
それなのに、今回、勝手に表彰させて頂くことにしたのは、松尾さんが出演中の舞台、二兎社公演『ザ・空気ver.2 誰も書いてはならぬ』(全国ツアー中、9月2日まで)を観たからである。これまで松尾さんが出演する舞台は数々観てきたが、今回の役どころは、僕が知る限り最高のはまり役だった。
官邸記者クラブの記者たちと総理官邸を巡る騒動を描いたこの作品、松尾さんが演じるのは飯塚敏郎という保守系全国紙の論説副主幹である。この肩書がどれほどのものかは僕にはわからないが、ジャーナリストとしてはかなりの権威であることは確かだ。そんな立場にあるにも関わらず、大きな権力とずるずるべったりで、定期的に総理と寿司を食っていそうな、なんともいや~らしい権威なのである。という具合に、なんともムカつく人物なのだが、松尾さんが演じると、はじめはもちろんムカつくが、なぜか次第に溜飲が下がってくる。
どうしてこんな奇妙な感想が湧いてくるのか。それは松尾さんが演じる飯塚から、まがいもの感が強烈に漂ってくるからだと思う。おそらく松尾さんは飯塚を演じつつも、飯塚に批判的であり、どこか物笑いの種にしているからだろう。飯塚の仮面の下に松尾さん自身が透けてみえる。松尾版“ガラスの仮面”だ。それがあのまがいもの感を生み出している。そして日頃から飯塚のような人物に不満を持っている僕たち観客は、そこに反応し、「よくぞ言ってくれた!」という快感を覚えるのだ。