アップルが映像配信ビジネスに手を拡げる日 iPhone Xが好調なうちに次の手を打つはずだ

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しかし、持続的な成長への決定打に欠けていることも透けて見える。

アップルは2017年、デビューから10年を迎えたiPhoneを刷新する目的でiPhone Xを発売したが、今年秋にはiPhone Xのコンセプトをより幅広いラインナップに展開すると予想される。“これからの新しい10年”を創りだしていく出発点として企画されたiPhone Xだが、売り上げ台数の大幅な伸びが期待できない中で、さらに高い付加価値を引き出せるかどうかが勝負と言えるだろう。

アップルはサービス部門およびウェアラブル部門(Apple Watch)の利益貢献度が高まっていることも強調している。ウェアラブル部門の売り上げは、iPhone事業が盤石だけに付帯率をさらに上げていくことも可能だろう。また、サービス部門も短期的にはApple MusicとiCloudの追加容量が売り上げを増していくと予想する。

しかし、サービス部門の成長を持続させられるかどうかは、映像配信事業へ取り組み次第だ。iTunesを通じた音楽ダウンロード市場がSpotifyの登場によって変化し、アップルはApple Musicを開始することでこの流れを自社プラットフォームに組み込むことに成功した。

加入型映像配信ビジネスに参入?

一方で昨年からアップルがNetflix対抗の加入型の映像配信ビジネスに参入するとの根強いウワサもある。単なる憶測との捉え方もあるが、強力な決済機能と紐付けられたiPhone/iPad/Mac/Apple TVを持つアップルが参入すれば、業界に大きな楔を打ち込むことになるだろう。

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まだテレビ局の力が強い日本市場だが、放送からネット配信への潮流が明らかな北米は今年、大きな転換期を迎えている。テレビ放送向け映像作品を表彰するエミー賞へのノミネート数で、ケーブルテレビ大手のHBOを抑えてNetflixがトップとなった。これは後に、放送からネット配信へと主導権が移り変わったことを象徴する出来事になるかもしれない。

自らが引き起こしたiPhoneによるイノベーションが一段落し、メディア事業を取り巻く事業環境が大きく変化してきた中、アップル自身がその新しい環境にどのように適合していくか。iPhoneの好調な売り上げが見込まれている間に、いかにして安定した収益源を確保するかが中期的な課題となってくる。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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