9割の悪事を「教養がない凡人」が起こすワケ 歴史と哲学が教える「悪の陳腐さ」の恐怖 

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コンプライアンス違反を犯そうとする組織があったとして、当然ながらそれを問題だと思う内部者はいたはずです。ではこのとき、その内部者は具体的にどのようなアクションがとり得たでしょうか? 具体的には次の2つ、

・オピニオン
 ・エグジット

ということになります。

オピニオンというのは「これはおかしい、やめたほうがいい」と意見する、ということで、エグジットというのは「こんな取り組みには俺はかかわらないよ、やーめた」といって仕事から遠ざかる、あるいは会社を退職するということです。

この「オピニオンとエグジット」というのは、従業員に限らず、組織がなにかおかしな方向に向かいそうになったときに、その組織の構成員やステークホルダーが取れる抵抗策と考えられます。

日本企業では、この2つの権利がほとんど行使できない

たとえば株主の場合であれば、経営陣の経営がおかしいと思えば、株主総会で「おかしいだろ、それ」とオピニオンを出すことができますし、何度オピニオンを出しても経営が改善しないということであれば、株を売るということでエグジットすることができます。

顧客も同じで、売主のサービスや商品に文句があるのであれば、クレームという形でオピニオンを出しますし、それでも状況が改まらなければ購買を中止するという形でエグジットすることができる。

したがって、健全な組織の運営にはステークホルダーに対して、この2つの権利を行使してもらう自由を与えたほうがいいわけですが……、日本企業でこれがどうなっているかというと、ほとんど行使できないわけです。なぜ行使できないか? 従業員のその企業への依存度が高すぎるからです。

株主も顧客もエグジットが容易にできるのは、代替手段があるからです。株主であれば別の会社の株を買う、顧客であれば別の企業からサービスや商品を購入すればいい。

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しかし従業員はそれがなかなかできない。その組織へオピニオンを出して上司や権力者から嫌われたら? ほかのオプションがあれば出世の見込みのない組織などさっさとヤメて別の組織に移ればいいわけですが、シングルキャリアでほかのオプションを持たない人にとって、これは非常にリスキーな選択でしょう。エグジットも同様です。

要するに、雇用の流動性が低い、パラレルキャリアを持つ人が少ない。結果「システムを批判的に思考する」人がいなくなってしまう。これが、日本でコンプライアンス違反という「悪」を是正させる組織内の圧力が弱い、根本的な原因なのです。

山口 周 独立研究者・著作者・パブリックスピーカー、ライプニッツ代表

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やまぐち しゅう / Shu Yamaguchi

1970年東京都生まれ。慶応義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン コンサルティング グループ、コーン・フェリー等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発などに従事。中川政七商店社外取締役。株式会社モバイルファクトリー社外取締役。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。

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