水質汚染公表まで1カ月 改革半ば伊藤ハムの失態

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水質汚染公表まで1カ月 改革半ば伊藤ハムの失態

伊藤ハムは、千葉県柏市の東京工場で使用する地下水から、基準値を超えるシアン化物が確認されたと発表した。検出されたシアン化物は基準値の2~3倍。製造過程で地下水を使用した「あらびきグルメウインナー」など13品目を自主回収した。翌日には、日本生活協同組合連合会など大手小売りから生産受託しているプライベートブランド商品13品目の回収も発表。合計26品目、331万パックを回収する騒ぎとなった。

「健康被害が出なかったのが不幸中の幸い」。伊藤ハムの連絡を受け、店頭商品の撤去作業に追われたスーパー各社は口をそろえる。だが、ある大手スーパーの関係者は「対応が遅い。これまでも偽装など問題が多い業界。だからこそ一流メーカーの伊藤ハムと取引してきたのに残念だ」と憤りを隠さない。

今回、地下水から最初にシアン化物が確認されたのは9月24日。10月25日に公表を行う1カ月も前のことだった。

東京工場は年間約500アイテムもの製品を生産する旗艦工場。1968年の設立以来、定期的に実施している検査で異常値を出したことは一度もなかった。今回も3カ月に一度の水質検査だったが、現場の担当者らはその結果を疑ったという。そのまま上に報告することなく、現場レベルで再検査を繰り返した。しかしそれから2度の検査を経ても結果は同じ。問題の地下水は、10月15日になってようやく工場長に報告が上げられるまで、3週間も使われ続けた。そして、本社の役員クラスに情報が伝えられたのは1週間後の22日で、管轄の柏市保健所に連絡があったのは翌23日だった。

今回の水質異常は、人体に影響を及ぼすレベルではない。だが厚生労働省は「公営の水道なら即給水停止にするケース。基準を満たさないとわかっていながら給水を続けていたのなら水道法に違反する」(健康局水道課)と指摘する。

変わらぬ企業体質

3年前、伊藤ハムは経営危機に陥っていた。2005年6月に輸入豚肉の差額関税制度をめぐる脱税容疑で起訴された。本業でも、販売価格の下落や原材料高のダブルパンチが襲い、06年3月期には上場来初となる39億円もの最終赤字を計上した。この業績悪化を理由に、創業家の伊藤正視社長を解任。そこから、伊藤ハムでは全社挙げての大改革が始まる。

新社長には、初めて創業家の出身ではない河西力氏が就任。「伊藤ハムグループ再生プラン」と銘打った2年間の中期経営計画を推し進めた。拠点の統廃合やコア事業への集中などリストラを断行。07年度には最終黒字を達成した。08年度から始まった新たな中期計画では「攻め」の姿勢も打ち出し、伊藤ハムは新たなステージにこぎ出したかに見えた。

脱税事件の反省から、コンプライアンス体制の整備も進めていた。CSR本部を設置し、社外有識者を交えて第三者の目で体制をチェックするためのCSR委員会、各部署での課題を全社で共有するためのCSR連絡委員会も開催してきた。

にもかかわらず、その傍らで事件は起こった。発足以来、CSR委員会の委員長を務める大阪商業大学の島田恒教授は「本当に残念でならない。組織が大きく、現場レベルまで意識改革が浸透していなかったということ。弁解の余地がない」と肩を落とす。

あるOBが打ち明ける。「伊藤ハムでは人事異動がほとんど行われない。営業、管理、生産でも工程ごとに細かく分かれていて、ほとんどの社員はほかの世界を知らない。他部署との人事交流もなく、マネジメントの訓練もされていなかった」。企業風土の改革は、まだ道半ばだったと言わざるをえない。

東京工場は10月29日から稼動を停止している。安全な水資源が確保されるまで、他工場へ生産を移管するという。ある同業他社は「事件後、ナショナルブランド製品の引き合いが増えている」と話す。年末のギフト商戦に向けて、主力工場の稼働停止は大きな痛手で、その影響は計り知れない。

(佐藤未来、鈴木良英、前田佳子 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済)

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