日本が身構えるべき「米中通貨安競争」の恐怖 デフレ不況に逆戻りするかもしれない

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「アメリカも通貨安政策を採ろうとするものの、米ドルは思いどおりには動かず、人民元安が勝る」ということになるのではないだろうか。つまり、中国はアメリカの制裁関税による不利益を一定程度中和することに成功するというわけだ。

米ドル安が人民元安に追いつけないのであれば、中国は人民元安誘導を続ける必要がなくなるため、人民元安傾向は止まる。トランプ大統領は中国の通貨安政策を批判し続けるものの、そうこうしているうちに本年11月の米中間選挙を過ぎ、トランプ大統領は振り上げた棍棒を静かに下ろす、という流れになっていくのではないか。

日本はデフレ不況に逆戻りするかもしれない

米中両国の通貨安競争によって日本は大きな影響を受ける。米ドルと人民元が通貨安を競えば、国際ルールに忠実な日本の円は両通貨に対して高くなる。為替レートの操作が目的であってもそうとは明言せずに「国内経済のため」といって金融緩和を行うことは許されるが、金利引き下げ余地がまったくない日本には難しい。

米中両国は日本の第1位もしくは第2位の貿易相手国であり輸出額の約40%、輸入額の約35%を両国が占める。両国通貨に対して円が高くなれば輸出は減退、輸入物価は下落する。つまり、日本はデフレ不況に逆戻りすることになるかもしれない。

アメリカと中国の対立に対する日本の株式市場の反応は楽観的に過ぎるようにみえるが、そろそろ身構えたほうがいいのかもしれない。

大薗 治夫 小説家

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おおその はるお / Haruo Osono

1987年大蔵省(現・財務省)に入省し、北見税務署長、Inter-American Development Bank出向等を経て在上海日本総領事館領事。1998年退官し、三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)上海現地法人上席エコノミストを経て2011年まで中国関連情報サイト運営会社社長兼編集長。著書に『小説集 カレンシー・レボリューション』『朱紈 倭寇の海英傑列伝』『上海エイレーネー』『カレンシー・ウォー〜小説日中通貨戦争』『中国を味方にして大成功する方法』など、編著に上海、北京、広州等の都市別「便利帳」シリーズ。

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