社会保障への不勉強が生み出す「誤報」の正体 名目値で見ても社会保障の将来はわからない
次の図を見てもらいたい。
公的年金財政の収入は、①保険料と②国庫負担、それに③積立金の3つから構成される。それぞれの規模は、今後100年の単位で見れば、①保険料収入は70%強を占め、②国庫負担20%程度、③積立金の取り崩しおよび運用収入から得られる収入は9%弱にすぎない。ゆえに、収入の大半は保険料が占めると考えてよい。
大半が賃金に連動する年金財政収支
次に、公的年金の財政収支のバランスを描いたてんびんの絵を見てもらいたい。
①保険料収入のほとんどは、賃金の一定割合で保険料が賦課されるので、保険料収入も賃金に連動する。また収入のうち、②国庫負担については、給付の一定割合として定まっているので、給付が賃金に連動すると、同様に国庫負担も賃金に連動する。
一方、てんびんの右側にある④年金給付は、賃金の伸びが高いと給付水準も高くなり、賃金の伸びが低いと給付水準も低くなる仕組みの下にある。ゆえに公的年金の給付は「長期的にはおおむね、賃金上昇に連動」することになる(=新規裁定年金の賃金スライド)。
このように、人口構造の変化による影響を除けば、公的年金財政の収支は、多くの要素が賃金に連動する性質を持つため、GDPや賃金の伸びに関する前提の高低にかかわらず、財政は自然とバランスが取れる。
そして、この仕組みの下での名目年金額は、GDPや賃金、物価が変動すれば、それに応じて変動する。ゆえに、将来の年金の給付水準は、名目年金額ではなく、ミクロでは所得代替率(年金給付額/現役世代の平均手取り収入)、マクロでは年金給付総額/GDPという実質値を用いて議論する場合にしか意味を成さない、つまり「議論の素材」にはなりえないのである。
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