石破茂氏のとがった発言にみる挑戦者の矜持 自民総裁選で「噛ませ犬」の汚名を晴らせるか

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ただ、総裁選が首相サイドの狙うような「消化試合」となれば、メディアの報道も含めて政策論争を国民にアピールするのは難しくなる。すでに細田、麻生、二階の主流3派閥は「安倍支持」を明確にしており、議員票では首相が石破氏に大差をつけている。6月20日の首相と麻生、二階両氏らの会合では「総裁選で負けた派閥は、(人事などで)冷遇される覚悟を持つべきだ」(麻生氏)との声が出た。首相に挑もうとする石破氏やその周辺への「露骨な恫喝」(石破氏側近)とも見える。

議員票での劣勢は認める石破氏だが、「選挙はやってみなければ分からない。国民や党員がどう判断するかだ」とも繰り返す。「地方票を着実に積み上げれば、議員票にも影響が出る」(同)と読むからだ。ただ、各メディアの世論調査での「首相にふさわしい政治家」では、石破氏が首相とトップ争いをしているものの、地方票に直結する自民党支持者に限れば「首相が石破氏を圧倒している」(自民幹部)のが現状とされる。

この点について、石破陣営では「福田赳夫、大平正芳の両氏が激突した1978年総裁選では地方党員による予備選で大平氏が首相だった福田氏を破り、福田氏は本選を辞退した。また、森喜朗元首相の退陣表明を受けての2001年の総裁選では、地方票で圧倒した小泉純一郎氏が劣勢とされていた議員票でも大勝した」と今後の地方票掘り起こしに期待をつなぐ。

今回は地方票と議員票が同時に開票される予定だが、石破氏は「国民・党員の判断と議員の判断が大きく離れたらどうするのか」と疑問を呈し、石破陣営も「地方票は先に開票して、議員の投票の参考にすべきだ」と主張する。石破氏の長年にわたる地方巡業の積み重ねが地方票獲得への自信と手ごたえになっていることは間違いなく、首相がここにきて、公務の合間に地方回りを続けているのも、石破氏の地方票積み上げへの警戒感からだ。

そうした中、豪雨被害拡大を受け、石破派は16、17日に開催予定だった夏の研修会の開催を中止した。これを踏まえて石破氏は、22日の国会閉幕直後の23日にも正式に出馬表明し、同時に政権構想も公表して首相に政策論争を仕掛ける構えだ。

「反軍演説」持ち出し、玉砕覚悟で挑む

地元の鳥取市で8日に講演した石破氏は、「正論を言うと評価を頂くが、風当たりは強い。出る杭は打たれるというが、出る杭が抜かれることもある」と逆風の強さを認める一方、「だけど、誰もそれを言わないでどうする。みんなが大勢に従い、寄らば大樹、キジも鳴かずば撃たれまい、誰も本当のことを言わない世の中は決していい世の中だと思わない」と安倍1強に制圧されたようにみえる自民党の現状への危機感と反発もあらわにした。

石破氏は最近の講演などでは、「どの演説よりも、(戦時下の帝国議会での反軍演説で除名された)斎藤隆夫の演説は燦然(さんぜん)と歴史に残っている。政治家はそうありたい」と議会史に残る斎藤隆夫氏の反軍演説に言及する。当時の帝国議会では多くの議員が斎藤演説に内心感動したものの、議会での除名決議に反対したのはわずか7人だったが、石破氏は自民党の現状とも重ね合わせて「真実を語る勇気、弾圧、抵抗があってもそれを訴える勇気と分かってもらえる真心を持ちたい」と熱っぽく語る。

総裁選をめぐる現在の党内情勢をみれば、「石破氏が首相を破る可能性は限りなくゼロに近い」(自民幹部)のは確かだ。しかし、「時代の転換期に総裁選を消化試合にすれば、自民党政権への国民の不満や批判が拡大するのは確実」(党長老)とされるだけに、石破氏が利害得失を度外視して玉砕覚悟で総裁選に挑むことが「モノ言えば唇寒し」という閉塞状況の打破につながることは間違いなさそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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