「財政破綻の夕張」で起きた地域医療の現実 今、私たちが夕張市民から学ぶべき事は何か

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次は1年間に市民が救急車を何回呼ぶかという話ですが、夕張市は小さい市ながら独自で消防署を持っているので、このデータは簡単に把握できます。

先述のように、病院閉鎖で夕張市には救急病院がなくなってしまいました。インフルエンザとか、ちょっとした肺炎くらいなら市内の診療所で対応できますが、心筋梗塞の発作とか交通事故の大ケガとか、いわゆる重症症例は市外の病院に救急搬送されます。ということで、救急車が病院に到着するまでの時間は以前の約2倍に伸びてしまいました。

近くに救急病院もなくなった。救急車も時間がかかるようになった。すると、「何かあったら手遅れにならないように、ちょっとした症状でもすぐに救急車を呼ぶ人が増えるんじゃないか?」という予想もできます。

でも事実は真逆で、夕張市の救急出動は約半分になりました。

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実は、全国的には救急出動は高齢化の進展もあり、約10年で約1.3倍に増えています(2001年が約440万件、2012年は約580万件)。これは高齢化率が約10年で17.4%(2000年)から24.1%(2012年)へと、約7%も急激に上昇しているから、ある意味仕方ないのかもしれません。

夕張市は人口がすごい勢いで減っていますが、前のグラフのように人口が10年で半分になったかというとそこまで減ってはいない。

しかも、救急症例の多くは高齢者です。

夕張市では総人口は減っていましたが、高齢者人口(75歳以上)は増えていました。

高齢化率もずっと上昇傾向です。それなのに救急出動件数が半分になったのは、いったいなぜなのでしょう。

在宅医療が増えた夕張市の現実

それはこのデータと関係があるのかもしれません。

(グラフ:『医療経済の嘘』より森田医師作成)

介護施設での看取り率と訪問診療の患者数の推移です。上のグラフが訪問診療、いわゆる在宅医療の患者数です。

もう1つ、夕張市内には特別養護老人ホーム、「特養」とか「特老」というものですね。そこの看取り率が市内特養での看取り率です。

「病院がなくなって入院できなくなったから在宅医療に追い出されたのでは?」と考えられる方もいるかもしれません。

でも、実は私がいた頃の診療所では、19床のうち平均5〜6床しか病床は埋まっていませんでした。

ですので、入院しようと思えば簡単にできたのです。

でも患者さんの希望をしっかり聞くと、入院を希望される方がほとんどいなかった。その結果、在宅医療が増えていきました。

これが財政破綻後の夕張市で起こったことです。

森田 洋之 医師、南日本ヘルスリサーチラボ代表

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もりた ひろゆき / Hiroyuki Morita

医療経済ジャーナリスト。鹿児島医療介護塾まちづくり部長、日本内科学会認定内科医、プライマリ・ケア指導医、鹿児島県参与(地方創生担当)。1971年横浜生まれ、一橋大学経済学部卒業後、宮崎医科大学医学部入学。宮崎県内で研修を修了し、2009年より北海道夕張市立診療所に勤務。同診療所所長を経て、現在は鹿児島県で研究・執筆・診療を中心に活動している。専門は在宅医療・地域医療・医療政策など。2011年、東京大学大学院H-PAC千葉・夕張グループにて夕張市の医療環境変化について研究。2012年、日本医事新報にて「夕張希望の杜の軌跡」を1年間連載。2014年、TEDxKagoshimaに出演、「医療崩壊のすすめ」で話題を集める。同年、研究論文「夕張市の高齢者一人あたり診療費減少に対する要因分析」(社会保険旬報)発表。2016年、著書『破綻からの奇蹟〜いま夕張市民から学ぶこと〜』にて、日本医学ジャーナリスト協会優秀賞を受賞する。これまでに、厚生労働省・財務省・東京大学・京都大学・九州大学、その他各種学会など講演多数。また、NHK・日本経済新聞・産経新聞・西日本新聞・南日本新聞・日経ビジネスなど取材多数。著書に『破綻からの奇蹟〜いま夕張市民から学ぶこと〜』、共著に『あおいけあ流 介護の世界』(加藤忠相との共著)がある。

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