「財政破綻の夕張」で起きた地域医療の現実

今、私たちが夕張市民から学ぶべき事は何か

老衰は自然死ですので立派な死因の1つです。これまでは日本人の死因のずっと下位のほうだったのですが、ここ数年で一気に上位に上がってきて、今は死因の5位にまでなっています。

でも、夕張市の場合は増え方が違います。

(グラフ:『医療経済の嘘』より森田医師作成)

このグラフは、夕張市の死亡総数のうち「老衰死」の割合の推移です。ちなみに、全国平均で言うと、全死亡数の6〜7%というところです。

「財政破綻で病院がなくなって、しっかり検査できないから、『老衰』ということになっているのでしょうか?」というご意見もよくいただくのですが、実際に夕張の臨床現場にいた医者の立場から1つ言えるのは、「死亡診断書に老衰と書くのは、実は簡単なことではない」ということです。

「老衰」を受け入れるには信頼関係も覚悟も必要

検査をして病気が判明して、それが原因で患者さんが亡くなったというのはわかりやすく、医師としてご家族にも説明がしやすい。その日、初めて患者さんを診る医師でも、それなら死亡診断書を書けます。

それに比べて老衰は、あくまでも自然死という「状態」であって「病気」ではない。ですので、「老衰」であるということをご本人・ご家族に受け入れていただくためには、医療側と患者・家族側との間に信頼関係が必要で、ご家族にとっても、それを受け入れるための時間と覚悟が必要なのです。

たとえ100歳の婆ちゃんでも、それまで走り回るくらい元気だった方の急病のときは、総合病院などに行ってちゃんと検査してもらいます。

老衰と診断できるのは、たとえば超高齢の患者さんが、特に大きな病気もなく徐々に体力が弱ってこられた場合とか、あるいは介護施設などでご家族が「父はもう高齢でだんだん体力も弱ってきていますから、なにかあっても札幌で検査とかではなく、最大限夕張でできることをしていただいたら、あとは自然に看取ってください」と言われるような場合です。

医療側としてはいろいろな疾患の否定もしなければいけないし、また、その老衰を受け入れるまでの気持ちの変化にも寄り添っていくわけですから、結構時間と労力が必要な大事なプロセスです。

検査して「病名」をつけるほうが科学的・論理的だし、医師としてはかっこいいけど、それはあくまでも医者の立場からの世界観であって、だんだん体力が衰えてきた超高齢患者さんを、病名を付けずに老衰と診断する勇気も地域医療では時に必要だと、私は思うのです。

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