青森県「ねぶた祭」頼みの観光PRをやめた理由 「見るだけ」の観光の需要は年々減っている

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「失敗したツアーや企画もたくさんあります」と木村氏は笑うが、物見遊山の観光から脱却するために試行錯誤を重ねてきたからこそ、今にいたる青森のユニークな観光へのアプローチがある。昨年始まった「大間マグロ一本釣り漁ウォッチングツアー」は、今年から台湾の旅行商品に組み込まれるなど成果も出ている。

いちばんの課題は「人」への依存

「体験型を展開するためには、地元の方々の協力に加え、ガイドの育成なども必要です。たとえば、大間マグロ一本釣り漁ウォッチングツアーは、大間のベテラン漁師であり、自身も夜にはえ縄漁を行う泉徳隆さんが操舵する第58海洋丸(約5トン)に乗り込み、 一本釣り漁を行う漁場へ向います。泉さんが夜に漁を行う漁師であったこと、そしてお客さんを乗せることができる許可を得ていたことで実現できた。裏を返せば、泉さんに頼っているところが大きい。行政が、協力してくださる方のタスクを分散できるような育成やプログラムを継続的に続けていくことが大事」

八甲田山で行われる「極寒クレイジーな超絶ホワイトアウトツアー」も、山岳ガイドが帯同するからこそ可能となる。催行回数を増やしてほしいという声が上がったとしても、現場のプロが足りなければ実現はできない。景勝地や祭りといった、目の前に広がっているものを見て楽しむ物見遊山と違い、体験型は人ありき。ここに体験型観光を展開したくても、なかなか増やせない難しさがある。

「青森県の場合、地域を盛り上げたいという方が本当に多い。たしかに青森県の観光は、年々、マニアックなものが増えていますが(笑)、『面白いことをやってやろう』と一緒に楽しんでくれる協力的な方が多いから、実験的なことを含めていろいろな観光の形を打ち出すことができています」

三人寄れば文殊の知恵ではないが、民間と行政と現場のプロが同じ方向を向いていればこそのユニークなツアーの数々。協力者が多いということは、それだけ痒い所に手が届く満足度の高い旅行体験にもつながる。

「既存のコンテンツにどれだけプラスアルファを加えられるかが、われわれの仕事。すでに成立している観光資源にあぐらをかくのではなく、青森県に旅行に来る方が、その資源を使って何ができるのかを考えていきたい。今後も、観光客の皆さんと双方向の観光を提供していきたいです」

我妻 弘崇 フリーライター

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あづま ひろたか / Hirotaka Aduma

1980年北海道帯広市生まれ。東京都目黒区で育つ。日本大学文理学部国文学科在学中に、東京NSC5期生として芸人活動を開始する。2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経てフリーライターとなる。現在は、雑誌・WEB媒体等で幅広い執筆活動を展開している。著書に『お金のミライは僕たちが決める』『週末バックパッカー ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(ともに星海社)など。

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