日本国債めぐる、かつてないほどの異常事態 市場低迷がもたらしかねない6つの副作用

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現在の国債市場は、日本銀行が新たに販売される国債のほとんどを買い上げてしまい、本来なら短期国債、中期国債、長期国債の金利は短いものほど低く、長いものほど高くなるように設定されている。こうした短期金利から長期金利をグラフで示した「イールドカーブ」は、左から右へとなだらかな上昇曲線となるのが普通だが、日本銀行はこのイールドカーブをフラット化することで10年物国債の金利低下を防いでいる。

最近では、20年債、30年債、40年債の超長期国債の売買によって、かろうじて債券市場は維持されている状況が続いているものの、イールドカーブ操作自体極めて異例であり、こうした金融政策を取った国はこれまでひとつもない。問題はその副作用だが、次の6つのことが考えられる。

(1)債券市場に投資する投資家がいなくなる
(2)特定の市場参加者に限定されることで市場の価格形成が歪む
(3)金融市場の変化を事前に察知することが難しくなる
(4)マーケットが一方向に動いたときに、ヘッジの役割をする金融商品が不在になる
(5)実質的な「財政ファイナンス」となり、国家財政の規律が失われる
(6)世界全体の債券市場が縮小したときに対応できなくなる

これらの中でも特に注目したいのは、(6)の「債券市場縮小時の対応」だ。周知のように、米国が今年すでに2回の金利引き上げを実施し、さらに年内にもう2回利上げする方針を示している。EU(欧州連合)の中央銀行に当たる「欧州中央銀行(ECB)」も、この12月までに量的緩和を終了させて、金利引き上げに向かう方向性を示した。

こうした世界の中央銀行がこれまで続けてきた量的緩和政策、あるいはゼロ金利政策は金融引き締めの方向へと動き始めている。世界規模で考えると、今後の「QE(量的緩和)」から「QT(量的引き締め)」への流れによって、ざっと1兆4000億ドル(154兆円)の流動性が失われるだろうとブルームバーグは伝えている。

世界経済は再び景気後退局面に戻る可能性がある

世界の金融市場の流動性が失われるということは、これまで高く推移してきた新興市場の債券市場や株式市場などから資金が逃避することを意味し、世界経済は再び景気後退局面に戻る可能性もある。

日本国債の場合、日本銀行が特定の投資家としてその大半を買い入れることで、金利を低く保ち、債券価格としては異例の高値を維持してきた。このような状況がずっと続いている現状では、日本銀行が出口戦略に向かったときに、債券市場がどんな動きを示すのかの予想は非常に困難となる。

場合によっては、債券価格が大暴落し、金利が急騰するケースも考えられる。通常の状態では、世界一の債権国である日本の国債が暴落するはずはないのだが、国債も金融マーケットで売買されている以上、債券価格が下落し金利が急騰することも十分ありうる。

とりわけ、すでに動き始めている「QEからQTへ」の動きによって154兆円の流動性がなくなるとき、どんな事態になるのか。日本銀行、とりわけ黒田総裁にとってははじめての事態を経験することになる。これまでの経験値が役に立たない可能性もある。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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