ベンチャーブームに沸く日本人が知らない壁 調達額急増も米国や中国と比べればなお小粒

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AIによる深層学習に強みを持つプリファード・ネットワークスには、2017年にトヨタ自動車が100億円超の出資を行ったほか、過去にはファナックやNTTも出資に参画。自動運転、工場の自動化などそれぞれの事業分野強化へ外部技術の取り込みを急ぐ。同年8月には、IoT(モノのインターネット)プラットフォーム大手のソラコムが、KDDIによって買収される(買収額は非公表)など、国内では珍しかった事業会社によるベンチャー企業の買収事例も出てきている。

メディアや不動産のような国内が主体の産業でも、ベンチャー発掘に熱をあげる大企業が出てきている。朝日新聞社は、2017年8月に20億円規模のベンチャー投資ファンドを組成。「新たな勢力によって、新聞や出版事業がディスラプト(崩壊)する中、われわれも外に打って出ないといけない」(朝日メディアラボベンチャーズの野澤博ディレクター)。

三井不動産は、今年5月に300億円規模のファンドの投資事業開始を発表したほか、東京ミッドタウン日比谷のワンフロアに巨大な大企業向けのオープンイノベーション支援施設を開設した。同社でベンチャー共創事業部を統括する光村圭一郎氏は、「テナントに入る大企業がイノベーションを求めているのに、ただオフィスを提供しているだけでは価値がない。CVCで非不動産事業を開拓し、そのノウハウも提供していく」と話す。

大企業がオープンイノベーションを掲げるのは初めてではない。CVCに詳しい早稲田大学ビジネススクールの樋原伸彦准教授は、「1990年代のインターネット黎明期にもCVCが相次ぎ設立されたが、しぼんでしまった」と指摘する。一方で「過去と違うのは大企業の危機意識が強く、投資の意思決定を事業会社本体ではなく担当部門の“出島”に任せるなど経験が生かされている点。ベンチャー企業も大企業との連携に積極的で、ただのブームではなく定着する可能性がある」(樋原氏)。

ユニコーン企業数では米中が圧倒的

市場が盛り上がる一方で、6月19日に上場したメルカリのようなユニコーン企業が今後も継続して出てくるかは不透明だ。ベンチャー界では評価額が1000億円以上の未公開企業を、幻の生き物である一角獣になぞらえて「ユニコーン企業」と呼ぶ。

上場ゴールになってしまっているベンチャーの存在も(撮影:梅谷 秀司)

政府は今後5年間で20社のユニコーン企業を輩出することを成長戦略の中で掲げ、今年6月には、経済産業省主導で国内約1万社のベンチャー企業の中から92社を選出。海外展開などを支援するJ-Startupという取り組みを始めた。政府の海外ミッション参加や規制緩和策の活用など、「えこひいきをして、世界で勝てるユニコーンを育てる」(世耕弘成・経済産業相)構えだ。

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