前述の名前を挙げたメーカーは、相対的にまともで誠実なメーカーであり、「本物」を作っていたから、バブルの一番の波には乗り切れない。同時に、本物のメーカーの一部は、この波にうまく乗る。ヘッドフォンでも、イヤホンでも、そういうメーカーは一部存在する。しかし、バブルの頂点で、もっともバブル的な行動をするのは、そうでないメーカーたちだ。
なぜならば、彼らは、長期に安定した顧客層で儲けてきていないから、これまでの顧客の声に縛られることもない。ガレージメーカー(もちろんガレージメーカーにも誠実なところもある。しかし、バブルにおいてはそういうメーカーの影は薄くなっていく)や、著名メーカーでも、ヘッドフォンやイヤホンでの実績のないメーカーなら何でもできる(もちろんそうでないメーカーもある)。だから、バブルにおいて急浮上したメーカーはまさにバブルメーカーなのだ。
なぜ誠実なプレーヤーも、バブルに参入するのか
それでは、誠実なメーカーは、このバブルを避けるべきではないか。本当はそうだ。しかし、彼らは参入せざるを得ない。なぜなら、バブルは儲かるからだ。
ヘッドフォンは普通のオーディオに比べて極めて利益率が高い。物理的な製造原価は圧倒的に小さいし、流通コストも小さい。イヤホンはさらにそうだ。それなのに、顧客層が異なり、ヘッドフォン層は、なぜか、大金をはたいて製品を買ってくれる。次々と新製品に飛びついてくれる。ここに参入しない理由はない。誠実であればあるほど、顧客ベースが縮小する伝統的オーディオマーケットだけでは生き残れないからだ。
彼らには、道が二つある。伝統的なオーディオマーケットで、今までどおり生きていくことだ。しかし、多くの誠実なメーカーは破綻したり、オーナーチェンジが起きたりしている。生き残るためには、こちらでも、マーケットの縮小分を利益率の上昇で補わないといけない。だから、最近のオーディオはびっくりするような価格のものばかりで、2000万円のスピーカーとか、冗談のようなものが存在する。
もう1つは、バブルに乗ることだ。2000万円のスピーかーと50万円のヘッドフォンで、どちらが不誠実か、ということは言えないが、原価率で言えば、ヘッドフォンの方が低いだろう。しかも、数はこちらの方が出る。ケタ違いだ。だから、このマーケットにメーカーは殺到する。
金融バブルでも同じだ。普通の金融取引では以前のような利益が出せない。世界的に企業はキャッシュを溜め込み、M&Aも自分でやる。だから、何らかの形で利益を確保しないといけない。融資などではなく、トレードによる収益で利益が倍増、というのはそういうことだ。もう一つの道はバブルを膨らませ、それに乗るということだ。
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