したたかな金正恩が9月に仕掛ける2つの計画 民主主義の弱みを突く北朝鮮の次の一手

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特にトランプ大統領は米国に届く大陸間弾道弾(ICBM)と核兵器だけに強い関心を持っていた。だが、北朝鮮についての問題はそれにとどまらず、核兵器と同じく大量破壊兵器とされている生物化学兵器を開発している可能性が高いこと、またミサイルについてはICBMだけでなく中短距離ミサイルも地域の平和と安定を脅かしていることなどを説明し、首脳会談のテーマとすることを繰り返し求めたという。結果的にはこうした事務局レベルの努力は、これまでのところ成果を上げているとは言えないようだ。

民主主義の弱点である「選挙」を狙い撃ち

経験知を生かした外交手法に加えて、北朝鮮の交渉術のもう一つの強みは、民主主義の弱点を巧みについている点だろう。

米朝首脳会談が行われたのは韓国の統一地方選挙の前日だった。共同声明で北朝鮮側が「朝鮮半島の非核化」に合意したことなどは、米朝首脳会談を橋渡ししたと主張している文在寅大統領にとっては、これ以上ない朗報だった。当然のことながら、大統領の支持率は80%以上に急上昇し、地方選挙は与党「共に民主党」の歴史的な勝利に終わった。文在寅大統領の政権基盤は一気に強化された。南北いずれが首脳会談の日程を統一地方選の直前にすることを提案したのかは知る由もないが、北朝鮮がそれを意識していたことは間違いない。

同じことが米国についてもいえる。トランプ大統領は11月の中間選挙を強く意識したツイートを連発している。金正恩委員長の秋のニューヨーク訪問が実現すれば、内容はともかく首脳会談など絵になるシーンを作ることが可能になる。それによって大統領の支持率は上がり、中間選挙で共和党に有利に働くことは明らかだ。それを北朝鮮が利用しないわけがない。秋の国連総会出席話が浮上するのも選挙が絡んでいるからである。

民主主義国家の指導者は常に国民の支持率を気にしながら政治を営むことを強いられている。それは金正恩委員長からすれば民主主義国家の政治指導者の弱点であり、うまく利用すれば外交的成果を得ることができる。トランプ大統領が目先の支持率にこだわればこだわるほど、金正恩委員長にとっては事が運びやすくなる。米国がそうした「民主主義の罠」にはまらないだけの忍耐力と、非核化やミサイル廃棄に関する確たる戦略を持つことができるかどうかが、今後のポイントになるだろう。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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