したたかな金正恩が9月に仕掛ける2つの計画 民主主義の弱みを突く北朝鮮の次の一手

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金桂冠氏は北朝鮮問題を知っている人であれば懐かしい名前である。1943年生まれの金桂冠氏はすでに75歳。1998年に外務次官に就任して以後20年間、北朝鮮の核問題などを協議する六者協議を一貫して担当するなど、米国などとの交渉を担当してきた人物である。

今回、金桂冠氏の名前が登場したことに日本外務省幹部らは「まだ、現役でやっているのか」と驚いたほどだ。金桂冠氏に限らず、北朝鮮では外務省幹部の異動は極めて少なく、多くの幹部が長期間、同じ部署で同じ問題を担当しているという。それだけに1990年代以降、核兵器開発をめぐって繰り返し行われた六者協議や米朝間の交渉など担当した官僚たちが現在も残っているとみられる。

彼らが長年にわたって展開してきた北朝鮮の外交は、大国間の考え方の違いや利害関係の対立の隙間をうまくついて、譲歩を引き出すという特徴を持っている。六者協議でも米国と中国、ロシア、そして日本の考え方の違いを巧みに利用して、圧力を回避したり自国の利益を実現しようとしてきた。今回の米朝会談に至る過程を見ても、金正恩委員長が頻繁に中国を訪問したり、ロシアと接触するなど大国を利用する外交手法は健在であり、それを支えているのが古参の外務官僚たちであろう。

北朝鮮外交の専門家を欠くトランプ政権

一方の米国は北朝鮮とは正反対である。本来、北朝鮮との水面下の交渉をすべきは外交を担う国務省であるが、レックス・ティラーソン国務長官が積極的に幹部人事を決めなかったため、主要ポストの多くが政権発足から1年半近くたつにもかかわらず空席のままだった。その結果、米朝首脳会談の事前交渉を担ったのがCIA長官のポンペオ氏(現・国務長官)であり、その部下だった。もちろん、彼らにとって北朝鮮との交渉は初めてのことであり、一から勉強しなければならなかった。

また、トランプ大統領を取り巻くホワイトハウスの大統領補佐官らも事情は同じだった。国家安全保障会議(NSC)の担当者を含め、北朝鮮やアジアについての専門家はいなかった。そのため米国側の要請を受けて日本や韓国の政府関係者が頻繁に彼らと会って、北朝鮮をめぐるこれまでの交渉経緯や合意内容、北朝鮮の交渉スタイルやこれまで合意内容をいかに順守しなかったか、などについて詳細を説明したという。

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