したたかな金正恩が9月に仕掛ける2つの計画 民主主義の弱みを突く北朝鮮の次の一手

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二つ目は9月下旬に予定されている国連総会である。日米政府関係者の間では、この国連総会に金正恩委員長が出席し、一般討論演説をするのではないかとささやかれている。この演説で金正恩委員長は朝鮮半島の非核化など米朝首脳会談に盛り込まれた合意を改めて強調し、国際社会に華々しくデビューするというのだ。  

国連総会に出席するためには米国が金正恩委員長のニューヨーク訪問を認めなければならない。そしてニューヨーク訪問となれば滞在中、トランプタワーでトランプ大統領との2回目の会談も可能になる。金正恩委員長の非核化演説も2度目の米朝首脳会談も実現すればともに米国内のテレビなどで大々的に報じられるであろうから、トランプ大統領が好む派手な政治パフォーマンスとなる。それは11月に予定されている中間選挙に向けて大きな弾みとなるだろう。

しかし、金正恩委員長のニューヨーク訪問については米国内から強い異論が出ることも避けられない。北朝鮮は現在、国連安保理の厳しい制裁を受けている最中であるとともに、米国がテロ支援国家として指定している国でもある。さらに米朝首脳会談で合意しながらも、核兵器やミサイルの廃棄について具体的な対応を示していない。そんな状況で国連演説という機会を与えていいのかというわけだ。しかし、トランプ大統領がいつものように目先の実利を優先するのであれば、強引に実現させるかもしれない。

経験知を生かし自国のペースに持ち込む北朝鮮

米朝首脳会談から半月余りたち、非核化などについてのその後、目立った動きがないこともあって、首脳会談後に公表された共同声明やトランプ大統領の記者会見については、否定的な評価が広がっている。会談直前まで米国が強調していたCVID(”complete, verifiable and irreversible denuclearization”、完全かつ検証可能で不可逆的な解体)に言及していないばかりか、米韓軍事演習の中止をはじめ多くの事柄が「段階的アプローチ」や「同時行動」という原則を主張した北朝鮮のペースで進んでいる。

その最大の理由は北朝鮮側の経験知を生かした外交手法だろう。米朝首脳会談実現をめぐって米朝両国が水面下で駆け引きを繰り広げていた5月中旬、北朝鮮の金桂冠(キム・ゲグァン)第1外務次官が突然、米国のジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が主張していた「リビア式核廃棄案」に反発して「米朝首脳会談を再考慮するほかはない」いう考えを表明した。

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