W杯で奮闘する宇佐美・原口を支えた男の胸中 ドイツクラブのフロントで活躍する瀬田元吾

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一方の原口元気は出場機会を求めて、2018年にいくつかある選択肢の中で、1部リーグの下位で残留争いするより、2部の昇格争いをする上位チームでプレーしたいという思いがあった。

スタジアムやファン、街などの要素も踏まえて、「2部リーグに行くならフォルトゥナ・デュッセルドルフのみ」と入団を決めていた。

しかし、加入から3試合目に原口元気は空中戦の競り合いから脳震とうを起こし、負傷退場となった。

相手選手が頭がい骨骨折の重傷を負ったことを考えれば、重度の脳震とうで済んだのは不幸中の幸いと言わざるを得ない。もし頭がい骨を損傷していたりしたら、今のW杯での活躍はなかったはずと瀬田氏は語った。

「脳震とうを起こし、途中退場となった原口選手は、その後かなり長い間、めまいに苦しめられました。通常の脳震とうであれば1週間もすれば復帰できるものですが、彼の場合、1週間たってもまともに生活することができないくらいでした。その間に何度も何度も検査を行いましたし、鍼治療や整体なども受けに行きました。

対応に当たったドクターらは、アイスホッケーの代表チームやプロチームで同様のケースを数多く見てきた人たち。異国の地で出口の見えないトンネルに入ったように苦しんでいた原口でしたが、ゆっくりと回復し、4試合ぶりにピッチに戻れたとき、サッカーを出来る喜びを噛み締めていました。今だから言えることは、原口選手はフォルトゥナでサッカーの楽しさを思い出し、サッカーできる幸せを再確認することが出来たのです」

優勝記念のシャーレを掲げる(左から)宇佐美選手、原口選手、金城選手(写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ)

後半戦にフォルトゥナがチームとして挙げた28得点のうち、実に14得点(宇佐美:6得点3アシスト、原口:1得点4アシスト)は日本人コンビの関与によるもの。

この数字からも分かるように、今回のフォルトゥナの2部リーグ優勝&1部リーグ昇格は、名実ともに彼らの活躍抜きにしては語れないものだろう。

日本でもドイツでも原口元気の加入により、宇佐美貴史が別人のように明るくなり、そして相乗効果が生まれたと様々な報道で紹介されていた。

「これを否定するつもりはありませんが、この2人の相乗効果には、お互いがお互いを認め合い、そして思いやる気持ちがあったからだと思っています。

原口選手はチーム加入早々、『あれだけ上手い貴史が試合に出られないなんて考えられない。2人でしっかり試合に出て、チームも勝たせる。俺がしっかり汗をかいて、貴史には気持ち良くプレーしてもらえれば。貴史には俺にはないセンスがあるから、それを最大限活かしてほしい』と話していました。

加えて『彼もここで結果を出せば絶対にW杯に行ける。フォルトゥナを2部で優勝させて、1部へ昇格させて、貴史と一緒にW杯に行くよ』と力強く語っていました」

宇佐美は、原口加入後、急にロッカールームやピッチの上で笑顔や冗談が増えたという。

「その理由も、宇佐美選手本人が話してくれていましたが、『僕はもうこのチームに来て半年経っている。元気くんはすでに出来上がっているチームに途中から入るという立場だったから。僕はこれまでに海外で4チームを経験してきたけど、途中からチームに入ることの難しさを経験しているから。

それを知っているからこそ、少しでも早く彼がチームに溶け込めるように、普段から冗談を言って、いじったりして、みんなにも元気くんと接しやすくしてあげようと思ってやっていただけ』だそうです」と原口元気への心遣いから来るものだと瀬田氏は話した。

原口と宇佐美がデュッセルドルフに残した喝采と敬意

フォルトゥナを6年ぶり6回目のブンデスリーガ1部へ導いてくれた日本人コンビへの評価は、まさに揺るぎないものとなり、デュッセルドルフ市庁舎前で行われた昇格報告イベントで、集まった1万人を超えるファンからの「宇佐美コール」、「原口コール」は鳴り止まなかった。

市庁舎前広場で行われた優勝&昇格報告イベントでの様子(写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ)

クラブはもちろん、メディアやデュッセルドルフ市長まで「フォルトゥナはあの2人を完全移籍で獲得しなくてはならない」とコメントしてくれていたことも、それがお世辞ではないことを証明している。

次ページ長く語り継がれるだろう日本人コンビの足跡
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