出口治明「歴史はタテとヨコで見ると面白い」 子どもに影響を与える「本を読む姿勢」

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いま、時代も場所もと述べましたが、これは「縦軸」と「横軸」と言い換えられます。歴史を学ぶのにどうしたらいいのですかと、よく尋ねられますが、縦軸と横軸の因果関係を知れば、理解は深まるでしょう。

この因果関係を考えるというのはとても大事なことです。たとえば、「日本の文明はどのあたりが発祥ですか?」と質問をします。「北九州のあたり」と答える方が多いのです。それはそのとおりなのですが、「ではなぜ北九州なのでしょうか?」とさらに問うと、「大陸に近いからですか?」という反応が返ってきます。しかし、大陸に近いだけなら北海道も近いですし、能登半島のあたりも船でひとまたぎです。この答えは、「朝鮮半島南部で鉄が産出したから」なのですね。鉄が採れ、鉄の道具が作れるようになると、農業が飛躍的に発展します。これはすぐわかりますよね。そうすると、文明が興るのです。

さらに進めて、ではその鉄器の代価を何で支払っていたのかを考えてみましょう。お米は朝鮮半島でも穫れますし、魚などは腐ってしまいます。この答えは「人」なのです。傭兵やさまざまな使役に従事する人を差し出すことで、鉄や仏教などの進んだ文明の文物を得ていたのです。『後漢書』や『魏志』に「生口(せいこう)を献上した」記録があるのは、その証です。

「出口史観」なんてありません

こうして因果関係を大きな物語としてとらえると、単にファクトを並べるのとは違って、俄然、歴史を知ることが楽しくなります。

僕が、『0から学ぶ「日本史」講義』や『全世界史』など、歴史の本を書いているのは、こういう因果関係を解説している本があまりないからです。

『別冊NHK100分de名著 読書の学校 出口治明 特別授業『西遊記』』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

最近それらについて、「出口史観」などと言われることがあって戸惑うのですが、僕が書いているのは、学者の方々が積み上げてこられた研究の成果に基づいたもので、「出口史観」などというものはないのです。学者のみなさんの研究の蓄積から導き出せる因果関係を語っているだけなのです。

近刊の「歴史を知る」ための面白い本として、呉座勇一さんの『陰謀の日本中世史』 (角川新書)をぜひおすすめしたいと思います。一見わかりやすい、耳触りのいい「陰謀論」が、どうダメなのかが、明快に語られています。

歴史や作品の背景を知り、物語についてはおおらかに楽しむのが古典を読むためにはいいのだと思います。そうして本を読むことが、若い人たちがゆたかな人生を送るための助けになればと願っています。

出口 治明 立命館アジア太平洋大学(APU)学長

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でぐち はるあき / Haruaki Deguchi

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2005年に同社を退職。2008年にライフネット生命を開業。2017年に代表取締役会長を退任後、2018年1月より現職。『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『人類5000年史Ⅰ』(ちくま新書)、『「全世界史」講義Ⅰ、Ⅱ』(新潮社)、『仕事に効く教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』(角川oneテーマ)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『ゼロから学ぶ「日本史」講義Ⅰ』(文藝春秋)など著書多数。

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