「乙武がモテるなら俺だってモテる」の危うさ 「障害者」というグルーピングは変だ

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乙武:つまり、人権という言葉を使わずに、いかに一つの社会問題がおかしな言説で覆われてしまっているかということを指摘する。そのためには、「国家と個人のバランスを比率で考えていこうよ」という切り口はなかなか面白いのかなと思っています。

例えば、国家と個人どちらが大事かというときに、個人:国家の比率を7:3ぐらいまで高めて考えれば、たとえ障害があって夫婦2人だけで育てていく力が弱かったとしても、産みたいならば産めばいいし、そこで足りないところは公的な補助をしてフォローをしていくべきであるという考え方になると思うんです。

逆に、「国家7:個人3」ぐらいになると、「個人の思いや感情、あるいは性的な欲求に任せて、自分たちで育てる責任も持てない子どもを産み育てるなら、それは自己責任で勝手にやれ」となってしまうと思うんです。そして、「責任が取れないなら産むな」「俺たちの税金をそこで使うんじゃない」「国家の維持・繁栄を考えるならば、お前らみたいな能力のない人間は子どもを産むべきではない」といった考えになるのも、むしろ当然だと思う……。

だから、人権というちょっと手垢にまみれてしまった言葉を使わずに、国家と個人、どれぐらいのバランスで物事を考えていくのがいいのか。国家も維持しながら、個人の幸せというものも追求していける社会なのかというのを考えていくということが、多分今後の日本にとって結構重要なことになってくるのかなと思うんですよね。

「当事者性のグラデーション」

安部:そのとおりですよね。僕らはよく「当事者性のグラデーション」という言葉を使うんです。

例えば、障害というとイシューに対しての当事者性で言ったら、僕と乙武さんだったら圧倒的に乙武さんの当事者性が高い。

乙武:うん。

安部:じゃあ、僕はゼロか? そんなことはないわけですよね。僕のはとこは耳が聞こえないし、地元で指導するソフトボールチームには障害のある子がいる。何かしらあるわけですよ。

あるいは、自分は障害者と全然関わりがないと思っている人だって、払ってる税金の一部は障害者のために使われているし、あるいはどこかで障害者のサポートがあるがゆえに、自分の生活に利益が出ているといった関わりが、間接的にでも絶対あるはずなんですよね。

結局、国っていうのは何かっていう話で、多くの人が当事者性の薄い問題を、まとめることによって担保する仕組みが国家なんですよね。だからおっしゃるとおりだと思っていて。

僕は国家と個人の対立論みたいな話になると、国家というものが深く考えられていないのではと感じるんですよね。国家って、当事者性の薄いグラデーションの集まりなんだよと考えると、やっぱりそれって別に皆さん関係なくはないし、自己責任論って絶対言い切れないところがある。

ただ、なかなか理解されないという問題はありますよね。あと、人権の概念みたいなのを、「自分たちで獲得してきた」「作ってきた」とならないと、簡単に手放しちゃいますよね。

それはさっき言った、イギリスと日本での「ヒューマンライツ」「人権」概念の差なのかなという気はしていて。結局、これから僕らが、プロセスをちゃんと踏まえて獲得してきたものにしていくっていうのは必要な気がしますよね。

乙武:ヨーロッパで権利は、やっぱり血を流した革命によって獲得したもの。日本でも、女性参政権なんかは結構それに近い意味があるのかもしれないけれど、ただ全般的にいえば、ヨーロッパの血を流した革命に比べれば、容易にとまでは言わないけれど、ヨーロッパほど衝撃的にではない流れで獲得してきてる経緯があるので、あまりそこに自覚的になれていないという欠点はあるかもしれないですね。

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「リディラバジャーナル」編集部

「リディラバジャーナル」は社会問題の現場を訪れるスタディツアーを提供しているリディラバが2018年1月に立ち上げたウェブメディア。社会問題を見続けてきたリディラバの知見をもとに、問題の背景にある社会構造まで踏み込んだ、特集形式で記事を提供する有料メディアです。

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