大和、SBIも参入だが… “規格濫立”の株式夜間市場

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カブコムは大苦戦中 それでも進まぬ連携

 「取引量を増やさないと厳しい」。カブドットコム証券の石川陽一執行役PTS統括部長は、昨年9月に始めた夜間取引が予想外の苦戦を強いられていることに危機感を募らせる。現在、2000銘柄を取り扱うが、1日の売買代金はわずか1億~2億円程度。月間手数料収入は、1000万円に満たないとみられる。 「今の数倍から10倍程度の売買高を見込んでいたはずだ」と関係者は話す。カブドットコムは夜間取引のシステム構築に10億円規模で投資しており、採算は苦しいようだ。

 苦戦の理由は大きく二つある。一つは取引量が絶対的に不足していること。もう一つはそれに伴い売買が成立(約定)しにくいことだ。関係者は「売買したい顧客がいても、価格が折り合わず約定に至らない注文数がかなりあるようだ」とささやく。

 市場の流動性を高めるには取引参加者を増やすのが得策だ。カブドットコムもそのために三菱UFJ、BNPパリバ、ゴールドマン・サックスの各証券会社と新たに連携するべく、現在、準備を進めている。

 業界の先陣を切って、サービスを始めたマネックス証券はどうか。夜間取引の1日当たり売買代金は3億円程度。市場の終値で取引するシンプルな値決め方式のため、PTSの設置・運営費はカブドットコムよりも少なく、採算はとれているとみられるが、やはり取引量は少ない。マネックスは丸三証券の顧客にPTSを開放している。「流動性は命。参加したい証券会社がいれば歓迎」と藤本誠之マーケティング部副部長は話しており、課題は認識している。

 「取引所集中原則」を長くとってきた日本は、金融ビッグバンの一環で1998年に法令を改正してPTSの開設を解禁した。当初、選択できた価格決定方式は2種類。だが「なかなか普及しなかった」(金融庁幹部)ため、2000年に2方式、05年にさらに1方式を追加した。既設の証券取引所における売買価格決定方式は、原則としてオークション(ジャスダック証券取引所はマーケットメイク方式を一部採用)に限られているから、選択肢の幅は大きい。

 結果として、夜間取引が本格普及期を迎えた今になって、四つの規格が“濫立”する事態になった。

 そもそもSBI陣営が最初から複数の証券会社で連合を組むのは流動性確保のためだ。大和証券グループは、自己資金により顧客注文を成立させていくマーケットメイク方式を採用してリスクを取るが、それも同様の理由からだ。各社とも流動性の重要性は当然理解している。

 しかし、米国のように業界を挙げた連携となると、各社は念頭にも置いていない様子だ。「各社とも主導権を握りたいし、連携すれば手の内を見せることになる。そもそも値決め方式が違うシステムの統合は技術的に簡単ではない。将来的にも連携していく可能性は低いだろう」と、複数の証券関係者が異口同音に内実を話す。

 「夜間取引は顧客の利便性向上につながる」と各陣営は口をそろえる。確かに各社のサービス差別化にはなるだろう。ただ、それぞれが限られた規模での閉じた市場に固執していては流動性向上にも限界がある。一般投資家もバラバラの取引形態では混乱するおそれがあるだろう。それに加えて、売買が成立しにくいとなれば、夜間取引はますます敬遠されるかもしれない。“本当の利便性”を証券界が再確認しないかぎり、日本でPTSや夜間市場が普及することは望み薄なのではないか。

(書き手:武政秀明 撮影:田所千代美)

武政 秀明
たけまさ ひであき / Hideaki Takemasa

1998年関西大学総合情報学部卒。国産大手自動車系ディーラーのセールスマン、新聞記者を経て、2005年東洋経済新報社に入社。2010年4月から東洋経済オンライン編集部。東洋経済オンライン副編集長を経て、2018年12月から東洋経済オンライン編集長。2020年5月、過去最高となる月間3億0457万PVを記録。2020年10月から2023年3月まで東洋経済オンライン編集部長。趣味はランニング。フルマラソンのベストタイムは2時間49分11秒(2012年勝田全国マラソン)。

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