つねに確認する“北極星”
――このインタビューの前半で、客が東京ステーションホテルに寄せる思いと、それに応えるためのスタッフの心構えをお聞きしましたが、リニューアル当初からそうした接客をすべきである、と確信していらっしゃったのでしょうか。
ビジネスはすべて、仮説と検証の繰り返しです。このホテルの仮説の大もとになっているのはやはり、この建物の保存復元プロジェクトにかかわってきた方々の思いと思想です。「本物とは何なのか」「それは何によって担保されるのか」といったメッセージを伝えていただく途中で、たぶんこれだろうなと思いました。
私が昨年7月に開業準備室に来て、室員と最初に行った仕事は、この「ミッションステートメント」、つまり私たちの使命と行動指針の策定です。私たちにとってこれは、迷ったときは戻ってくるところ、いわば北極星なのです。
ここには「OMOTENASHI(おもてなし)」と書いてあります。旅館もホテルも皆さん「おもてなし」と言うけれども、定義が何か、語れる方はなかなかいないと思います。
ここに書いてありますが、私たちのおもてなしは3つで構成されます。「装い」「しつらえ」「振る舞い」。どれかひとつが欠けてもダメなのです。それがちゃんとできているのか、できていないのか。つねに、そこへ戻ります。フィロソフィー(哲学)があるのです。
――その哲学について、もう少し詳しく教えていただけませんか。
当ホテルを運営する日本ホテルの行動指針をブレイクダウンして、東京ステーションホテルならではの要素も加えました。さらに価値観として、保存復元プロジェクトにかかわってきた方の思いや哲学が土台になっています。
駅舎の宿命は何かと言うと「使い続ける文化財」であることです。博物館や見世物にしない。英語でリビング・ヘリテージと言いますが、使い続けるからこそ文化財の価値が増す、という哲学なのです。保存復元室長の田原幸夫氏が強くおっしゃっていたことです。
開業したときに、2人で南ドームの真ん中に立っていたのですが、お客さんが2階の回廊にわーっと入ってきて、流れ始めたときに、田原さんが「血が通いましたね」とおっしゃった。その言葉を忘れません。
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