インド・ヨーロッパ語族は、どう拡散したのか

ステップを駆けたライダーたち

図2 紀元前400年頃のインド・ヨーロッパ語族(語派)の地理的分布(図版提供:筑摩書房)

上下巻で、本文だけで650ページを超える大著だ。その議論を詳細に紹介するというのは、字数の点でも能力の点でもわたしの限界を超えている。そこで以下では、その議論のごく大まかな流れを紹介することにしたい。

印欧祖語はいつ、どこで話されていたのか

インド・ヨーロッパ語族はどうしていち早く広い地域に分布することになったのか。その謎に挑むにあたって、著者は問題を大きくふたつに分解する。すなわち、インド・ヨーロッパ祖語の原郷をめぐる問題(第I部)と、その語族の具体的な拡散過程に関する問題(第II部)だ。

インド・ヨーロッパ語族の諸言語は共通祖先を持っており、その共通祖先にあたる言語は「インド・ヨーロッパ祖語(印欧祖語、Proto-Indo-European)」と呼ばれる(図1参照)。では、印欧祖語はいつ、どこで、どんな人たちによって話されていたのか。これが第一の問題である。

その問題をめぐって展開される前半180ページの議論が、じつは本書のなかで最もエキサイティングな部分のひとつである。そこで著者は、おもに言語学的な知見ないし証拠に依拠しながら、その問題の解明に取り組んでいる。

そのなかでもとくにエキサイティングなのは、印欧祖語の「再構築」と、それをとおして多くの事実が明らかになってくることだ。当然のことながら、印欧祖語はすでに失われており、それ自体の記録は残っていない。だが、印欧祖語から派生した言語(娘言語)たちを確定し、それらの語彙を比較すれば、印欧祖語の語彙をかなりの精度で復元することができる。実際、そうした手法により、言語学者はこれまでに印欧祖語の語彙を1500以上も復元している。

そして、そうして復元された語彙のなかには、たとえば「車輪」に相当する単語や、ワゴン(四輪荷車)に関連する単語も含まれる。これはとりわけ注目に値する事実だろう。というのも、その事実は、印欧祖語の話し手が車輪付きの乗り物をすでに使用していたことを強く示唆するからである。そのようにして、それら復元された語彙をとおして、印欧祖語の話し手たちの生活スタイルや社会制度などが浮かび上がってくる。

次ページ語彙の借用関係が意味すること
ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • Amazon週間ビジネス・経済書ランキング
  • 中原圭介の未来予想図
  • 男性学・田中俊之のお悩み相談室
  • トクを積む習慣
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
0/400

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
背水のフジテレビ<br>500日の苦闘

日枝会長が退き宮内新体制が発足してから1年半。増益に転じたが視聴率は低迷を続ける。長寿番組の打ち切りが象徴する大胆な編成改革に加え、組織もコストも抜本的に見直した。背水の陣を敷く同社の人間ドラマを追う。