「潰れる銭湯と生き残る銭湯」にある明確な差 ひそかなブームでも銭湯は減り続けている
「銭湯の所有形態は3種類。土地、建物ともに所有しているのが全体の2割ほど。残り8割は、土地は借地で建物は自己所有、あるいは土地、建物ともに地主所有というケース。その場合の建て替えはかなり難しいのです」と川越氏。清水湯の場合は借地だったが、川越氏が地主宅に通い詰めて購入に成功し、建て替えることができた。
自己所有なら自分の判断で建て替えられるが、借地の場合は地主に多額の承諾料を払う必要があり、一般的な建て替えより費用が嵩む。また、建て直すとなるとRC造にせざるをえず、固定資産税が上がる。それを地主が嫌がれば建て替えは不可能。つまり、今ある銭湯のうち、借地上にある約8割には消滅の不安があるというわけである。
立地のよさは両刃の剣
そもそも、まちとして元気な場所にある銭湯の場合、立地のよさは両刃の剣だ。厚生労働省の「生活衛生関係営業経営実態調査」(2012年度)によると銭湯の敷地は平均で1264.4㎡。十分にマンションが建つ広さで、実際、廃業した銭湯の多くは住宅になっている。また、周辺が多少寂れていても23区内の地域の中心とも言うべき場所にある銭湯は格好の住宅用地。そこに権利関係の問題が重なる。
加えてもうひとつ、銭湯業界独特の理由がある。厚生労働省が主管する公衆浴場法は銭湯の個人経営者の経営継承は相続人でなければいけないとの制限を設けている。そのため、所有者である親が他人に経営してもらってでも銭湯を残したいと切望しても、息子、娘などの相続人に残すつもりがなければ、営業を引き受けてくれる人がいても継続はできない。
これは銭湯に限ったことではないが、経営に携わっている長男は残したいと考えても、残りの兄弟姉妹がそれよりも土地を売って遺産分割しようと言った場合も同様。後継者がいない場合も含め、相続時に消滅する銭湯が多いのはそうした理由からだ。
だが、銭湯のこれからに期待する人も少なくない。続いて訪れたのは、杉並区高円寺にある小杉湯。都内の銭湯1日当たりの平均入浴人員が132人(2017年)という状況下、週末には1日500人が押し寄せる人気銭湯の3代目、平松佑介氏も銭湯に明るい未来を描く1人だ。
大学卒業後、住宅メーカーに勤務し、30代で人材関連の会社を創業した経験がある平松氏は、家族で長時間労働が当たり前という銭湯運営の大変さを認めたうえで、それでも起業時のつらい経験があるから頑張れると話す。「入浴人員が100人でも、500人でも働く人は番台と裏方の2人だけで固定費は変わらない。番台はパートでもよく、裏方もずっと張りついている必要はない。やりようはあります」。
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