大恐慌が吹き荒れていた1930年代には「テクノクラシー」と呼ばれる急進的な社会運動が台頭。米コロンビア大学とかかわりを持つテクノクラシーの唱道者は、金によって価値を裏付ける金本位制ではなく、エネルギー単位「エルグ」でドルを担保するよう主張した。
経済を「エネルギー基準」に変えれば失業問題を克服できる、という理論を発展させたのである。だが、ブームは短命に終わった。技術的な問題がないかのように装っていたことが、トップクラスの科学者によって暴かれたのである。
仮想通貨が魅力的に映る理由
しかし、最新の科学に身を包んでマネーを革新しようとする試みが、これで終わったわけではない。1932年にはジョン・ピース・ノートンという経済学者が、ドルの価値を金ではなく電気によって裏付ける電気本位制を提唱した。ノートンの「電気ドル」は大いに注目されたが、電気とドルを兌換することに確たる根拠があったわけではない。
当時は各家庭にようやく電気が行き渡り始めた頃であり、最先端科学の華やかな雰囲気を最高に盛り上げてくれるものが、たまたま電気だったにすぎない。しかし、テクノクラシー同様、生煮えの科学武装は裏目に出た。電気ドルは笑いのネタにしかならないと考えた当時の評論家、ハリー・フィリップスはこう書いた。「税金として政府に300ボルトを送りつけたら楽しいことになりそうだ」。
そして今、私たちの前に再び新しい通貨が姿を現した。ビットコインをはじめとする仮想通貨だ。
過去に企てられてきたマネー革命は独特な科学理論と結び付いていた。そして、これまでと同様、仮想通貨が持つ魅力もある種の謎と関係している。コンピュータ科学の専門家以外で仮想通貨の仕組みを説明できる人間など、まずいないだろう。
こうしたわかりにくさが特別なオーラにつながり、新しい貨幣を魅力的なものとし、信者を熱狂で満たすのだ。これは、どれも新しいことではない。過去に生まれては消えていった事例同様、うまくできた話なだけで、新貨幣は成り立たないだろう。
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