核融合炉を14歳で作った天才の親がしたこと 5歳の誕生日プレゼントはクレーンの操縦

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“テイラーとジョーイの才能に気づいて、それを理解しようとした。子どもたちを急かしたりはせず、味方になって、応援し続けたし、知的な冒険をさせることもいとわなかった。子どもたちが自分の関心を追求し、それを広げていけるように、新しいことを知る機会を与えたり、助言を与えてくれるメンターと引き合わせたりした。”

本格的に核融合を目指す

専門知識を持つ優れたメンターを得たテイラー少年は、さらにその道を突き進む。より太く核物理について理解し、高額で不足しがちながん診断用の医療用同位体を、核融合反応で放出される中性子を使って作れないだろうか?と考え始め、本格的に核融合を目指すことになる。

『太陽を創った少年:僕はガレージの物理学者』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

彼が目指すファーンズワース=ハーシュ型フューザーは、円の内側に向かってイオンを発射し正面衝突をうながすことで原子核の融合および高エネルギーの中性子を発生させる仕組みだが、当然そう簡単にはいかない。惑星間空間よりも何桁も高い真空度が必要で、10万ボルトの電圧と、5億8000万度に達するプラズマコア発生させ、それらすべての条件を保つことのできる頑丈な環境を用意しなければならない。だがテイラー少年はそれをやり遂げるのである。両親の助けもあって環境を得て、100万以上する実験器具を寄付してもらったり、譲ってもらったり、その道の専門家のメンターを得──その波乱の道程は、是非読んで確かめてもらいたいところ。

本書が素晴らしいと感じたのは、テイラー少年が核融合炉を作る過程で陥った幾つもの失敗を技術的な詳細と共に書いてくれているところである。実はそこ──仮説を立てる、実際に実験で確かめようとしてみる、失敗する、なぜ失敗したのかを検証する、再度仮説を立てて実験してみる──といったサイクルにこそ、”科学のおもしろさ”があるのではないだろうか。科学のおもしろさについて、ギフテッドの教育、「天才」とレッテルをはって祭り上げることで、増長し墜落する危険性など、本書には多様な論点が内包されている。ぜひオススメしたい1冊だ。

冬木 糸一 HONZ

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1989年生。フィクション、ノンフィクション何でもありのブログ「基本読書」運営中。 根っからのSF好きで雑誌のSFマガジンとSFマガジンcakes版」でreviewを書いています。

 

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