「世界最大債権国」日本、直接投資急拡大の必然 「円」が最強通貨である理由と代償

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また、対外純資産残高に関し主要国比較をすると、日本に次いで大きいのがドイツの261兆円1848億円、中国の204兆8135億円であった。この上位3カ国の顔ぶれは例年通りだが、ドイツと中国の差は2015年にかけてほぼ消滅し、2016年もほぼ同じとなった後、2017年にはかなり開いている。さらに日本との比較で見ても、2014年以降、ドイツの対外純資産残高は日本に徐々に、しかし確実に肉薄していることが分かる。

2014年といえば、ECBがマイナス金利導入に踏み切った年であり、これに応じて一方的なユーロ安が(昨年4月まで)続く端緒となった年だ。そうしてもたらされた「永遠の割安通貨」を背景にドイツの経常黒字は2011年から2014年まで4年連続で世界最大を記録した後、2015年にわずかながら中国を下回り世界2位となったが、2016年から2017年にかけてはやはり2年連続で世界最大を記録している。しかもIMF(国際通貨基金)の予測に従えば、両国の差は徐々に広がっていく見通しだ。

日本と比較した場合はよりドイツの優位が鮮明であり、2011年以降、7年連続でドイツの経常黒字が日本のそれを凌駕しており、しかもその差は常に1000~2000億ドルと大きい。このような経常収支に基づく「フロー」の差は自ずと「ストック」である対外純資産の差へとつながる。実際にドイツの対外純資産残高の増加は著しいものがある。

為替の調整が働かないドイツの帰結は?

円が安全資産としての需要を引きつける理由が「世界最大の対外純資産国」としてのステータスにあるとすれば、本来、ドイツが保有する通貨も同種の需要を引きつけなければなるまい。今後、そうした文脈に即して「リスク回避のユーロ買い」が出てくることもあるかもしれない。しかし、足元の相場状況からも明らかなように、ユーロがドイツのファンダメンタルズのみを反映して強くなることは今後もあり得ない。対外純資産残高と足元の相場の現状を照らし合わせ浮かび上がってくる事実は「共通通貨ユーロのおかげでドイツは不意の通貨高を食らわないで済んでいる」という特異な立場であろう。

しかし、本来修正されるべき不均衡が一方向に拡大し続けることが果たして可能なのかどうかは大いに議論の余地がある。ドイツの不動産価格は世界的に見ても騰勢が目立つという指摘は多く、例えば2016年から2017年にかけて不動産価格が最も高騰した世界の10都市のうちトップのベルリンを含む4都市(ベルリン、ハンブルク、ミュンヘン、フランクフルト)がドイツの都市だったという 。ECBがこうしたシステミックリスクの芽を如何にして摘んでいくのかは非常に興味深いテーマである。

日本は「世界最大の対外純資産国」というステータスと引き換えに慢性的な通貨高に病むようになり、そのたびに景気が減速した。そのステータスに手がかかりつつあるドイツは為替レートの調整機能が働かない代わりに、どのような展開をたどるのだろうか。不動産価格に象徴される資産価格のブーム&バーストだとしたら、その根は非常に深いものである。この点については別途、機会を設けて論じてみたい。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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