「地位はあるけど教養がない」人たちの末路 人も企業も進化するために「哲学」が必要だ

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さて、ではこれがなぜビジネスパーソンにとって重要なのかというと、ビジネスでもまた、批判的思考が求められるからです。変化する現実に対して、現在の考え方や取り組みを批判的に見直して、自分たちの構えを変化させていく。かつてはうまくいっていた仕組みを、現実の変化に適応する形で変更していく。企業のことを英語ではゴーイングコンサーンと言いますね。これは「永続することを前提にした組織」ということですが、重要なのは「環境が変化する」のに対して、「企業が永続する」という点で、これはつまり、企業というのは「どんどん変化していく」ことが前提となっているということです。

なぜ、日本の組織は変化できないのか

このように指摘すると、「そんなことは当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、では、その「当たり前」がなぜ、多くの日本企業では難しいのか。

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最大のポイントは「変化」には必ず「否定が伴う」という点です。これまでやってきた考え方、動き方を否定したうえで、新しい考え方、動き方を取り入れていく。難しいのは「新しい考え方・動き方」を「始める」ことではなく、「古い考え方・動き方」を批判的にとらえて、これを「終わらせる」ことなんです。これまで通用した「考え方」を、一旦批判的に見直してみる。そして、それが現実にうまく適応できていない、現実をうまく説明できていないのだとすると、その理由を考察して、新しいパラダイムを提案する、ということが求められるわけですが、これはまさに、哲学者が連綿とやってきたことです。

対象となる問題はもちろん異なりますが、このような「自分たちの行動や判断を無意識のうちに規定している暗黙の前提」に対して、意識的に批判・考察してみる知的態度や切り口を得ることができる、というのも哲学を学ぶメリットとして挙げられると思います。

山口 周 独立研究者・著作者・パブリックスピーカー、ライプニッツ代表

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やまぐち しゅう / Shu Yamaguchi

1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン コンサルティング グループ、コーン・フェリー等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発などに従事。中川政七商店社外取締役。株式会社モバイルファクトリー社外取締役。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。

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