「地位はあるけど教養がない」人たちの末路

人も企業も進化するために「哲学」が必要だ

ひるがえって、わが国の状況はどうでしょうか。たまさか、筆者は先日ある経済団体の集まりに問題提起者として参加し、財界を代表する経営者と「文化と企業」の関係について議論する機会を持ちました。しかし、ここでわかったのは、このテーマについて、まともに「自分の意見を述べる」ことができる経営者が、少なくともその場にはいなかった、ということでした。多くの経営者は「文化は儲からない」「祇園におカネを落としたいが時間がない」といった幼稚なコメントに終始し、まともに「企業経営が文化形成に与える影響」について議論することができませんでした。

一方で、このように無教養な「お金儲けの専門家」によって率いられている多くの日本企業から、子どもでさえ仰天させるようなコンプライアンス違反が続出しているわが国の状況を鑑みれば、このアスペン研究所設立の前提となったハッチンスの問題意識が極めて予見性に満ちたものであったことがわかります。

「弁証法」を理解する意味

哲学を学ぶことの最大の効用は、「いま、目の前で何が起きているのか」を深く洞察するためのヒントを数多く手に入れることができるということです。そして、この「いま、目の前で何が起きているのか」という問いは、言うまでもなく、多くの経営者やビジネスパーソンが向き合わなければならない、最重要の問いでもあります。つまり、哲学者の残したキーコンセプトを学ぶことで、この「いま、何が起きているのか」という問いに対して答えを出すための、大きな洞察を得ることができる、ということです。これは具体例を出して説明しないとなかなかわからないかもしれません。

たとえば、いま世界で教育革命と言われる流れが進行していますね。フィンランドのそれが最も有名ですが、たとえば年次別のカリキュラムを止めてしまう、教科別の授業を止めてしまうという流れです。日本で育った私たちからすると、学校の授業といえば、同じ年齢の子どもが教室に並んで、同じ教科を同時に勉強する、というイメージが強く、フィンランドで採用されているこのシステムは奇異に聞こえるかもしれません。自分たちが慣れ親しんでいるものとは異なる、なんらかの「新しい教育の仕組み」が出てきた、という理解です。

ところが、ここで「弁証法」という枠組みを用いて考えてみると違う理解が立ち上がってくる。それは「新しい教育システムが出てきた」ということではなく、「古い教育システムが復活してきた」という理解です。

弁証法というのは、ある主張=Aがあったとして、それに反対する、あるいは矛盾する主張=Bがあり、それが両者を否定することなく統合する新しい主張=Cに進化するという思考のプロセスを指す言葉ですが、この時、この統合・進化は直線上ではなく、「らせん状」に行われることになります。らせん状ということはつまり、横から見ればジグザグの上昇運動に、上から見れば円上の回転運動に見えるということで、要するに「発展」と「復古」が同時に起きる、ということです。

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