「殺人シーンOK、暴力・ハラスメントNG」の矛盾 ドラマをめぐる視聴者感覚に戸惑うテレビ局

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しかし、それらの背景があるにしても、テレビ番組は、エンターテインメントの1ジャンルであり、フィクションの制作物にすぎません。視聴者自身、本当は「強烈なストレスを感じなければいけないほどのものではない」ことをわかっているのではないでしょうか。

あなたが、もし「テレビ番組なんてどうでもいいもの」と思っていたら、序盤・中盤くらいのストレスくらい容易に受け止められるはずです。その意味で、批判の声をあげている人々にとってテレビ番組は、今なお大切なものなのでしょう。

ネットメディアのミスリードに要注意

また、賢明なビジネスパーソンであるみなさんは、ネットメディアが報じる“視聴率”という指標にミスリードされないよう気をつけたいところです。

刑事ドラマをはじめとする殺人事件が起きる作品は、リアルタイムで見る指標の視聴率こそ高いものの、タイムシフト(録画視聴率)は、前述した暴力やハラスメントのシーンがある作品のほうが高いというケースがほとんど。さらに、暴力やハラスメントのシーンがある作品は、じっくり見るドラマフリークほど好評価を得る傾向が強いですし、現在放送中の作品では「モンテ・クリスト伯」がそれに該当します。

ネットメディアはページビューなどの数字を稼ぐために「低視聴率」を掲げた記事を次々にアップし、それを見た人々は「ストレスを感じるドラマだからだ」「刑事ドラマしか視聴率を取れないテレビは終わっている」などと酷評する。近年このような風潮がありますが、TVerなどオンデマンドの視聴も含め、まだまだ多くの人々に見られているという事実をネットメディアが報じていないだけにすぎません。

もともとテレビ番組はネットコンテンツと同様に、「無料であり、見たくない人は見なければいいだけ」のものにもかかわらず、何かと叩きやすいもの。巨大組織へのアンチや、旧態依然の象徴として、標的にしたくなる気持ちはあるでしょうが、みなさんが賢明なビジネスパーソンなら、ネットメディアの偏った情報や、そこから生まれた風潮に流されず、本質を見極めた上で、自分の声を発信してほしいのです。

「爽快感や感動の小さい作品ばかりが増えていく」という傾向は、テレビ業界以上に視聴者の不利益になりかねません。テレビ番組の作り手たちは、良くも悪くも受け手の顔色をうかがうようになりました。

それこそが、当コラムのタイトルに掲げた「殺人はアリで、暴力やハラスメントはナシ」という矛盾の根源ではないでしょうか。多様なエンタメを無料で楽しみ続けるためには、視聴者が浅慮な批判をせず、安易なレッテルを貼らないことが重要な時代になっているのです。

エンタメの幅が狭くなるのも、無料で見られるコンテンツの数が減るのも、誰一人として得しない不幸なこと。私たち視聴者がそれに関与しているのなら、それは一刻も早くやめるべきではないでしょうか。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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