「1人7万円」のベーシックインカムは可能か AIがBIの導入を促進?

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──ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンが「負の所得税」を提案していました。

「負の所得税」はBIに類似した制度と言っていい。低所得者がマイナスの徴税つまり給付を受けられる制度だ。BIと負の所得税は本質的に同じ効果を持つ。ざっくり言うと中間所得層は税金を払って、でも給付がもらえるからだいたいプラスマイナスゼロ。低所得の人たちはそんなに税金を払わなくて給付を受けるから、BIの導入によって得する。

金持ちの人たちが月に直して、たとえば20万円税金を払って7万円給付を受けるのだったら、差し引きの13万円分だけ税金を払えばいいという計算が成り立つ。その浮いた部分が負の所得税だと考えてもらえばいい。負の所得税とBIは単に手続き上の違いであり、BIを負の所得税と考えたら、経費がそんなにかからないことをわかっていただけるのではないか。

景気をコントロールするための変動BI

──「ヘリコプターマネー」とのかかわりは。

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これまでの話は税金を財源としたもの。最低限の生活保障はなるべく安定的な財源があったほうがよく、それは税金で賄う。7万円の財源は死守したい。

それ以外に、国民配当、もう少しわかりやすい表現を使えば、国民ボーナスとして貨幣発行益の余った部分、あるいは経済が成長するにつれおカネを増やす分を国民に直接まくこともできる。いわゆるヘリコプターマネーだ。景気コントロールのための「変動BI」と表現してもいいと思っている。

景気がよくなければおカネをまいて、インフレを起こす。景気のいいときには景気を抑えないといけないので、国民ボーナスはなし。景気をコントロールするための変動BIと、税金を財源にしている「固定BI」の両方があったほうがいい。この固定BIは、たとえば国会の議決を経て変更することもできよう。

──AIがBIの導入を促進?

国民全体から見れば、給付を得ないとやっていけない人、つまりBIを欲しがる人はまだ少数派にとどまるが、AIが普及して仕事を失う人が増え、将来BIで生活を安定化させてほしいとの意見が高まることから、BI導入に賛成する人は増えてくるだろう。今から準備しないと国民の生活は成り立たないと考える政治家はまだ一部にとどまるが、導入の必要性は今後ますます強まっていかざるをえないのではないか。

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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