パナ伝説のエンジニアが語るイノベーター論 特許件数1300件、ライセンス収入は380億円

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大嶋:みんながアナログTV放送の研究をしているとき、1989年くらいから、私はデジタルTV放送の研究をしていたんです。その後、デジタル放送の規格を巡って世界中の技術者が競い合いましたが、結果として私が勝ちました。勝ち負けの基準は何かというと、地上波デジタルTV放送の基幹部を担う「規格必須特許」に認定された件数になります。日米欧とも、私の規格特許が最も多く採用されているんです。特許のシェアは30%を超えました。

当時、デジタルTV放送はアメリカが先導していました。MITで電気工学の教授をしていた、ウィリアム・シュライバーという人物がその流れを牽引していて、彼は米国議会で「デジタルTVをやるべし」と証言したことから、アナログHD放送からデジタルHD放送に流れが変わりました。彼と私は同じ方式の特許を出したのですが、私の方が出願日が早かったんです。数年後、シュライバーの研究室から「最近は何を研究されてますか?」という探りの手紙が届きました(笑)。

ちなみにもう一人、1999年から2001年までベル研究所の所長を務めていた、コンピューターエンジニアのアラン・ネトラヴァリにも、4G携帯やWiFiなどで使われている通信速度可変型デジタル通信方式の基本特許で勝ちました。彼は、ノーベル賞級の研究をおこなっている人物です。

「見立ての力」も、非常に重要

石川:人より早く研究テーマを見つける「見立ての力」も、非常に重要であるというお話ですね。そうした見立ての力を、ご自身ではどう分析していますか?

大嶋:私の場合の目利きは、パターン認識です。いろいろな成功パターンも失敗パターンもアタマに入っていますから。成功事例は10ですが、それに加えて30程度の失敗事例があるから、40ほどの事例のパターンがアタマに入っているわけです。この40事例のなかのそれぞれに、「あそこでこうしたら成功した/失敗した」というパターンが10件あるので、合わせると400くらいのパターンがアタマに入っているのです。

なのでパッと見て、「これはあのパターンだな」ってすぐに判断できます。要はリンク力です。「これはあの時と一緒だから危ない」とか、パッとわかるので目利きができる。

石川:大嶋さんは、そもそもものごとを見る時に、「それが世界初かどうか」という視点で考えているわけですものね。そのコンセプトで40年活動をしてきたわけですから、もう、溜まっている知見が圧倒的なのだと思います。

大嶋:「世界初、世界一」以外はやりません。無線研で感染した「イノベーター菌」が、私の中では消えることなくずっと生きているわけですから。

大嶋と石川の対談は、六本木ヒルズにある森ビルの会議室で行われた。石川が声をかけた研究者、スタートアップ、ベンチャーキャピタリストといったメンバーが、対談の様子を生で体験することとなった

松下幸之助は、無線研というハコを作って500人くらいの研究者を集め、少し尖った無垢な新入社員をそこに放り込み、どんどんイノベーター菌に感染させていきました。立ち上げ当初、無線研には大学の助教クラスや、通産省(当時)の研究所からイノベーターたちが集められおり、そのマインドやノウハウを、私たちのような後輩の研究者は伝承することができました。しかし失われた20年の影響で、現在その伝承は分断されてしまっています。私のこれからの使命のひとつは、その状況を打破し、若い世代のイノベーターを育成していくことだと考えています。

当社は今年100周年を迎えますが、現在の社長である津賀一宏は、創業以来、初めての研究所出身者です。しかも無線研究所出身ですので、イノベーターに理解がある経営者です。これを好機としてイノベーションの風土が生まれ、若きイノベーターも育ち、よりイノベーティブな企業として、次の100年に向けて大きく飛躍することを期待しています。

大嶋と石川の対談は、六本木ヒルズにある森ビルの会議室で行われた。石川が声をかけた研究者、スタートアップ、ベンチャーキャピタリストといったメンバーが、対談の様子を生で体験することとなった。

(TEXT BY TOMONARI COTANI、PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI)

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「HILLS LIFE DAILY」編集部

六本木ヒルズ開業の翌年に創刊された、都心エリアのためのライフスタイルメディア。都市生活者に向け新たな情報やトレンドを伝え、アイデアやビジョンを広く提案しつつ、東京という街のクリエイティブな可能性を高めてゆくことを目的としている。

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