ネットフリックスの最大の敵は「素人作品」だ C Channel森川亮社長が語る動画配信の未来

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――確かに欧米に比べ、アジアではネットフリックスの存在感が薄いです。

アジア人は、欧米人と比べて動画におカネを払うことに慣れていない。特に若い人は、先進国、新興国にかかわらず無駄なものにおカネを使いたがらない。この先もネットフリックスの会員数はある程度まで伸びるだろうが、そこから先の成長を考えるなら、何らかの無料モデルを入れないと、厳しい気がする。

だからもし、ネットフリックスが(スウェーデンの定額音楽配信サービスである)スポティファイくらい大胆に無料プランを展開し始めれば、アジアの状況は一変するかもしれない。ネットフリックスがもう一段の大勝負に出ると、放送事業者など世界中の旧来型メディアを窮地に追い込む可能性もある。

ハリウッドで映画を作る意味はあるのか

――最近ではカンヌ国際映画祭から撤退というニュースもありましたが、既存の映画業界とネットフリックスとの関係はどうなっていくのでしょう?

エンタメ産業の「オムニチャネル化」はもう止まらない。リアルな劇場も視聴者との1つの接点として残るが、あらゆる映像作品はPCやスマートフォン、あるいはネットにつないだテレビ端末で見るのが基本になっていくだろう。勝負のポイントは、どの会社が面白いコンテンツを作れるか、獲得できるか。それが既存の映画会社なのか、ネットフリックスのような新興勢力なのかは関係ない。

森川亮(もりかわ・あきら)/1967年生まれ。筑波大学卒業後、日本テレビ放送網に入社。コンピュータシステム部門でネット広告や映像配信、モバイル、国際放送などの新規事業立ち上げに携わる。その後ソニーを経て、ハンゲームジャパン(現LINE)に入社、2007年社長就任。2015年に退任し、動画メディアを運営するC Channelを創業(撮影:今井康一)

先ほど話した“素人”も、今後もっと力をつけることになる。エンタメ作品の作り方は急速に変わっている。わかりやすいのは音楽だ。作り手は、今やPC上で自分の思い描く音楽を作り出せるし、部屋から一歩も出ずとも世界中に配信できる。すると、音楽レーベルって本当に必要なんだっけ? メジャーデビューって何の意味があるんだっけ? となる。そういった議論がすでに起きている。

映像作品も同じ。今でもある程度の映像制作はPCで簡単にできるし、ゆくゆくは俳優をバーチャルデータにして貸し出すような事業も発展してくる。プログラミングで動かしたり、しゃべらせたりするわけだ。十分使える技術になるまで、おそらく10年もかからない。そうなれば、カンヌって何ですか? ハリウッドで映画を作る意味は? と問われる時代が来るだろう。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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