米朝首脳会談にシンガポールが選ばれた必然 トランプ大統領は板門店を熱望したが…

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5月8~9日にはカナダでG7(主要7カ国)首脳会議が開かれる。その前に米朝首脳会談を開き、その結果をトランプ氏がG7首脳会議の場で説明することも検討されたという。しかし、それだとトランプ氏の日程がタイトになり厳しいため、G7首脳会合の後に行われることになったようだ。トランプ氏は、カナダから直接シンガポール入りする可能性もある。

トランプ氏は、板門店で開催することにこだわっていたという。文在寅・韓国大統領と、正恩氏が手をつなぎ合って軍事境界線を行き来したシーンは、「イベント性」の点で、トランプ氏には大きな魅力に見えたことだろう。

ところが米政府内では、会談結果が思わしくない場合、北朝鮮が「米国の大統領が白旗をあげてわが国に来た」などと政治的に利用される可能性があることや、核をめぐる交渉が難航することも予想されることから、シンガポールを強く勧める声が強かったようだ。

事前の調整が進んでいない証拠

逆に言えば、シンガポールが選ばれたのは、それだけ核をめぐる事前の調整が順調に進んでいないということだ。米国が求める「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」は、北朝鮮は簡単に飲めない。北朝鮮は、中国という後ろ盾を得て、「段階的な核放棄」を米国に求めている。南北関係の発展を望む韓国は、北朝鮮に同情的だ。

米国と歩調を共にする安倍政権は、日本人の拉致問題の解決の糸口として、シンガポール会談に熱い視線を送るものの、「アメリカファースト」のトランプ氏が、日本のことにどれだけ配慮してくれるか自信が持てないでいる。

各国の思惑がうごめくシンガポール。周囲のアドバイスを聞かず、自信満々に見えるトランプ氏だが、著書などでは交渉が失敗することへの恐怖も語っている。しかし、「失敗の可能性はつきものだが、何もしないよりは実際にやってみる方が成功のチャンスは大きい」(『トランプ思考 知られざる逆転の成功哲学』PHP研究所)とも語っている。

トランプ氏はツイッターでシンガポール会談について「We will both try to make it a very special moment for World Peace! (世界の平和のために特別な瞬間にしたい!)」と述べている、いったい、どのような秘策を繰り出すのだろうか。

五味 洋治 東京新聞 論説委員

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ごみ ようじ / Yoji Gomi

1958年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞東京本社入社。韓国・延世大学に語学留学の後、1999年から2002年までソウル支局に勤務。2003年から2006年まで中国総局勤務。この間、2004年に北京国際空港で金正男に偶然会ったことからメールのやり取りが始まり、のちに単独インタビューを実現させる。2008年8月から10カ月間ジョージタウン大学にフルブライト留学。現在は東京新聞論説委員。著書に『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋)、『父・金正日と私 金正男独占告白』(文春文庫)など。

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