若手を適応障害にする職場で起きていること 「理想と現実のギャップ」とは何なのか

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一方で膨大な二次情報がパソコンやネットには存在する。だが豊田氏は、「二次情報にさらっと触れただけでは、情報は自分のものになりません。一夜漬けの試験勉強は、すぐ忘れてしまうのがいい例です」と話す。遭遇した出来事、聞いた話など断片的な一次情報を、後で改めて「なるほどなあ」と内省する。「そうして初めて、情報は自分のものになります」。この積み重ねが自分なりの「仕事の型」につながっていくわけだが、二次情報ばかりで一次情報が減ってしまった現代の職場は、新入・若手社員にとって自らの「仕事の型」を創り出しにくい環境になっているのだろう。

もう一つ新入・若手社員に大きな影響を与えているのが仕事の高度な仕組み化や細分化だ。例えば法人営業。かつて新規顧客の開拓はアポなしの飛び込み営業など、非常に骨が折れるものだったが、近年は仕組化が進んでいる。他社のユーザーリストやアプローチ候補者リストが用意され、商品説明や接客対応でも高度なマニュアルが用意される。新たにその仕事に就いたとしても、決められた手順をまじめにこなせば、そこそこの数字は残せるようになっている。「ある会社の役員は、自社の若手営業の仕事ぶりについて『まるで作業をしているようだ』と語っていました」(豊田氏)。

だが、試行錯誤を重ね、自分なりのノウハウを構築していくような働き方は、難しくなっているという。

仕事の高度な仕組み化や細分化

仕事の細分化については、豊田氏はテレビの開発を例に挙げる。ブラウン管の時代、1製品の開発に関わるのは10人足らずだったが、液晶時代には200人に膨れ上がった。テレビ開発の中の半導体に限っても、製造プロセスは500にも及ぶ。「1人のエンジニアがかかわるのはそのうちの5~6程度。若いエンジニアは、自分が担当する部分が最終的にどんな製品に生かされ、どんな目的で何に使われるのか、理解していないでしょう」

モチベーション(動機づけ)研究の分野では、自分の仕事について「一連の仕事を最初から最後まで任される(タスク完結性)」「自分のやり方で進められる(自律性)」「仕事の結果や成果に反響や手ごたえがある(フィードバック)」などを感じられると、仕事へのモチベーションは高まるという理論がある。「若手社員を対象にアンケート調査をしてみると、これらを自分の仕事で得られているという若手は、半数しかいませんでした」と、豊田氏。

現代の職場で進む仕事の高度な仕組み化や細分化は、新入・若手社員の仕事へのモチベーションを下げてしまっているようだ。

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