缶コーヒーと「ガテン系」の切れない甘い関係 缶コーヒーをめぐる熾烈なシェア争いの実態

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BOSSも、「発売当初から、『働く人の相棒』というコンセプトを変えていない」(大塚氏)。CMではこれまで、日本で働く“宇宙人”として俳優のトミー・リー・ジョーンズ氏を起用し続けてきた。そもそも、「『BOSS』というネーミングは働く人々の憧れから来ている」(同)。

メーカーがこうした労働現場に訴求し続ける理由は、単に市場が大きいというだけではなく、「容量が少なく容器自体の原価が安いショート缶は、ほかの容器に比べて粗利が高い。コーヒーの中のドル箱商品」(飲料メーカー関係者)という側面もある。

だが近年、ショート缶の王座は揺らいでいる。急速にシェアを伸ばしているのはキャップが閉められ、利便性が売りの「ボトル缶」だ。依然としてショート缶の構成比は7割以上あるものの、ボトル缶の構成比は2016年には16%を占め、5年間で約2倍に伸びた(ユーロモニター)。

また、飲料メーカーや自販機ベンダーには、建設現場にばかりは頼っていられない事情もある。

「設置や撤去の費用を考えれば最低でも1年は(自販機を)置けないと採算は取れないが、工期が数カ月ほどという短い現場も多い。そうした現場では瞬間的な売り上げの爆発力はあるが、頼っていると業績が安定しなくなってしまう」(大手自販機ベンダー)

建設業の就業者数の減少も逆風だ。1997年に685万人いた就業者数は、その後の長引く不況と公共工事の縮小のあおりを受けて建設業から人材が流出。2017年には498万人とピーク時から4分の3以下にまで落ち込んでいる。近年は建設需要が盛り返しているが、それでも就業人口は横ばいを保つのが精一杯という状況だ。

オフィスで大ヒットの「クラフトボス」

2017年、サントリーは従来の「ガテン系」にもBOSSを訴求し続ける一方で、缶ではなくPETボトル入りコーヒーの「クラフトボス」を発売。従来のPETボトルコーヒーに比べ容器の透明さを全面に打ち出した。

「女性や若年層が、オフィスワークをしながら少しずつゆっくりコーヒーを飲む『ちびだら飲み』の需要をうまくとらえた」(サントリーの大塚氏)ことでヒットになった。

CMでも、クラフトボスの世界観はこれまでのBOSSと一線を画している。舞台はIT企業のオフィス。俳優の堺雅人氏が、オフィスワーカーの働き方や行動の自由さに困惑する様子を描く。

クラフトボスに追随するように、飲料メーカー各社はPETボトル入りコーヒー飲料を続々と発売。「ガテン系」だけではなく、オフィスワーカーの開拓にも躍起になっている。コーヒーはこれからも「働く人」の心をとらえ続けられるか。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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