ニュー新橋ビルのすぐには解決できない悩み 多数の区分所有が耐震強度不足問題を複雑に

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分譲マンションを含めて区分所有建物の建て替えでは、成功事例に共通する事業手法がある。余っている容積率を使って規模の大きな建物を建設し、増えた床を外部に売ることで、区分所有者が建設費用などを負担せずに、現在と同等の新しい床を手に入れることができるというやり方だ。

タダ同然で新築したビルの床を手に入れられるのなら合意形成しやすくなる。しかし、ニュー新橋ビルを単体で建て替えるのでは容積率の割り増しがあまり見込めない。そこで、区分所有者の負担を減らすために、SL広場や南側の一部街区を取り込んで事業エリアを2倍以上の約2.8ヘクタール(約2万8000平方メートル)に拡大し、市街地再開発準備組合を立ち上げたわけだ。一般的に敷地が広いほうが高いビルが建てやすくなる。

ここにきて、新交通ゆりかもめの新橋駅がある東口地区でも、再開発準備組合を立ち上げる動きが出てきた。東口駅前にもニュー新橋ビルと同様に、東京都が建設して1966年に完成した新橋駅前ビル1号館、2号館があり、同様に区分所有ビルなので建て替えが進んでいなかった。

東京都港区では、2012年に「環状2号線周辺地区まちづくりガイドライン」を策定して、新橋・虎ノ門エリアの再開発事業を推進する取り組みを行ってきた。新橋駅西口地区もガイドラインの対象地区になっていたが、当時は具体的な規制内容や誘導策が書き込まれていなかった。

そこで新橋駅東口地区も加えて、17年度から2~3年の計画でまちづくりガイドラインの改定作業に着手。西口準備組合では、より良い条件で再開発事業が進められるように港区への働きかけに力を入れている。ガイドラインが改定されれば、JR新橋駅周辺の再開発が一気に動き出すことが期待できる。

ニュー新橋ビルをどうするか

問題は、それまでの間、ニュー新橋ビルをどうするか。東口の新橋駅前ビルは、災害時に重要な緊急輸送道路に指定されている第一京浜(国道15号線)に面しているため、東京都からの補助金を得てすでに耐震改修を実施済み。慌てて再開発計画を進める必要はない。

ニュー新橋ビルは、緊急輸送道路に接していないため補助金の対象外。耐震改修を自己資金だけで行うのは区分所有者の費用負担が重く、これまでは合意形成がなかなか進まなかった。耐震診断の義務化と実名公表を盛り込んだ2013年の耐震改修促進法改正では、耐震改修に限っては合意形成に必要な区分所有者の賛成者数は、それまで全体の4分の3だったのが同2分の1に引き下げられている。

すでに建て替えが決まっているビルを耐震改修するのはもったいない話だが、さすがにこのまま放置するわけにもいかない。同ビルを担当した大手設計事務所に依頼して、できるだけ費用をかけずに耐震改修する方法を検討中。「費用が高額になると合意形成が難しくなる」(管理組合)だけに、再開発事業の成功に向けて知恵を絞る必要がありそうだ。

千葉 利宏 ジャーナリスト

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ちば・としひろ / Toshihiro Chiba

1958年北海道札幌市生まれ。新聞社を経て2001年からフリー。日本不動産ジャーナリスト会議代表幹事。著書に『実家のたたみ方』(翔泳社)など。

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