ハリル騒動でみえた「日本人監督化」の青写真 選手を納得させる指揮官の理想像を検証する

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2014年ブラジルワールドカップでアルジェリアを16強入りさせたハリル監督に対して「タテに蹴り出すばかりのスタイルでは難しい」と異論を唱える人間が、今の日本代表にも少なからずいるのだから、日本人監督の場合はサッカーの戦術やスタイルに関しての齟齬はよりいっそう起きるかもしれない。「日本人同士は言葉が通じるから、話し合えば分かり合える」と楽観的に捉えるのはやはり危険。ハイレベルの世界を知る選手を納得させられるだけのバックグラウンドが、日本人監督に求められる時代になったのは間違いない。

その現実を踏まえると、日本人でA代表の指揮を執るべきなのは、これまで重視されてきたクラブでの実績に加えて、①ワールドカップ経験者、②海外リーグ経験者という2つの要素を兼ね備えた人物ではないだろうか。

1998年フランス大会から過去5回の日本代表経験者のうち、その条件を満たすS級ライセンス(Jリーグ監督を務められる日本サッカー界最高のライセンス)保持者は今のところ、J1・ジュビロ磐田の名波浩監督、J3・ガンバ大阪U-23の宮本恒靖監督くらいしかいないが、彼らのいずれかを抜擢して育てていくような長期プランがあってもいい。

なかでも、名波監督はJ2に沈んでいた磐田をここ数年で見事に再建するなど卓越した手腕を発揮している。カリスマ性を持ち、世界基準を貪欲に学び、それを選手に落とし込む術にも長けている。選手時代に1998年フランスワールドカップで10番を背負い、壮絶な重圧を味わったことも貴重な経験値だ。現時点で有力な候補者であることは間違いない。

元代表選手をエリート監督に育成するプランはどうか

世界を見渡すと、かつて代表の軸を担った中心選手をエリート監督へ育てるスタイルはしばしば受けられる。宮本監督とオーストリアリーグ1部・ザルツブルク時代の同僚だったドイツのブンデスリーガ・フランクフルトのニコ・コバチ監督は好例だろう。2006年ドイツワールドカップでクロアチア代表キャプテンを務めた彼は、2009年の現役引退後、4年後の2013年にはU-21クロアチア代表監督になり、同年10月にはクロアチア代表指揮官となって、2014年ブラジルワールドカップに参戦している。

この時は必ずしも成功したとは言い切れなかったが、2016年に長谷部誠も所属するドイツ・フランクフルト指揮官に就任してからは目覚ましい成果を挙げ、来季からバイエルン・ミュンヘン監督にステップアップすることになった。彼がドイツで成功しつつあるのも、クロアチア協会がいち早くエリート監督を育てようと取り組んでくれたから。日本も腰を据えてエリート監督を養成する動きを始めないと、Jリーグやアジアレベルの経験しかない監督が繰り返し日本代表を率いることになり、選手の国際経験値や世界基準とかけ離れた状態が生まれていく。その問題点を協会はしっかりと認識すべきだ。

将来的には長谷部や川島永嗣(フランス・FCメス)、吉田らが欧州でプロライセンスを取得し、日本に戻ってくる時代がやってくるだろう。それまでの間をどうするかが今の日本代表は問われている。場当たり的な人事を続けるのではなく、長期ビジョンを持って日本代表を率いることができる優秀な人材を育成していくことが肝要だ。それができるように、技術委員会など関係者が今すぐ意識改革を図り、フレッシュで風通しのいい組織を再構築してほしいものである。

(文中一部敬称略)

元川 悦子 サッカージャーナリスト

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もとかわ えつこ / Etsuko Motokawa

1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。

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