開業2年「北海道新幹線」特需消えて正念場へ 進まない駅前開発、集客や地元連携にも課題

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筆者の調査はサンプル数が少なく、調査対象者も異なるため、前年と単純な比較はできないが、青森・函館両市の交流やその成果をめぐって、減速・衰退の兆候を感じている市民が少数でも存在することには、十分な注意が必要だろう。今後、観光分野にとどまらず、地域の主体である住民そのものを対象にした、両市などによる本格的な調査と検証の実施が期待される。

「青函圏」埋没のおそれも

本州側、道南側それぞれの連携に加え、津軽海峡を挟んだ連携についても、自治体・観光団体等の枠組みが多種多様に重なり合っている実情を確認できた。連携・交流の増大と多様化は、多彩な活動を通じた多様な成果を期待できる半面、連携そのものが自己目的化して表面的な実績づくりが優先されかねず、現場の疲弊を招くおそれがある。業務の数が増えても、それに見合ったマンパワーを確保できるとは限らない。

特に、函館市エリアは、さまざまな連携の核となる一方で、これまで本州側の第一のパートナーだった青森市との連携に手が回りきらなくなっている可能性がある。青森・函館両市を軸とした「青函圏」や「青函交流」が、複層化する地域間交流の中に埋没しかねない。にもかかわらず、青森市側は、そのような問題意識や危機感が薄いように見える。

加えて、青森県庁は「津軽海峡交流圏」の名を掲げ、北海道側との連携を再構築しようと各種の施策を打ち出している。北海道新幹線開業を契機に活動が始まった民間レベルの交流も、北海道松前町と青森県大間町に事務的な拠点を置く「津軽海峡マグロ女子会」、北海道江差町と青森県五所川原市、同佐井村における「津軽海峡交流圏 郷土芸能祭」など、いずれも「津軽海峡」を前面に打ち出す。

筆者のヒアリングによれば、何より、青森県や道南地域の業者が連携して各地で開いている物産展で「青函」という名前が通用しなくなっているという。青函連絡船の廃止から30年、海底トンネルの名に「青函」は残っていても、この言葉から「津軽海峡を挟んだ青森県・道南エリア」を連想できない来場者が増えているというのだ。

地域のイメージ、そして暮らしや経済活動の実態がどう変わっていくのか。「青函圏」「津軽海峡交流圏」の在り方や行方についても、検証や提言を重ねていきたい。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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