トランプの貿易戦争、ドイツに非はないのか 米独首脳会談を前に「異形の経済」を解説する

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今年3月に入ってから米国と、ドイツを擁するEU(欧州連合)との間では貿易に関し激しい舌戦が繰り広げられている。たとえば欧州委員会は鉄鋼・アルミニウム関税に対し報復措置を取る方針を正式に表明し、米国産のオートバイやバーボンウイスキーなど総額64億ユーロに上る報復関税リストまで提示した。これに対しトランプ大統領はツイッター上で「(報復関税を課すなら)EUから輸入される自動車に税金を課すだけ」と文字どおり、報復合戦も辞さない姿勢を示している。

米国と米国以上の人口を誇るEUが本格的な貿易戦争に入れば、その影響は甚大なものになるだろう。そもそも先進国首脳の中でもトランプ大統領とメルケル首相の相性は最も悪そうで、事態がより複雑化しやすい面もある。4月27日、両者はワシントンで首脳会談を持つようだが、筆者は穏便な議論に収束しないという予感がする。

米国の保護主義政策の先鋭化は「トランプ大統領の身勝手さ」とくくられることがほとんどだが、為替政策報告書の主張には理があり、EU、とりわけドイツには非がないとはいえない。

ドイツの貿易黒字は2017年通年で約2500億ユーロだが、このうち7割超がEU外に対する黒字であり、EU内に対しては3割弱にとどまる。輸出も輸入も基本的にはその6~7割が対EU取引なのだが、収支尻(黒字額)は対EU外取引のほうが大きいのである。

こうしたドイツの貿易黒字に関する「対EU外>対EU」という大小関係は昔からあったわけではなく、2009年以降に定着した構図である。2009年以降、ドイツの貿易黒字額は対EUでほぼ横ばいが続き、2017年と2002年の水準はほとんど変わらない。片や、対EU外では2009年以降、黒字額は急増しており、2017年のそれは2002年の約3倍にも膨れ上がっている。ドイツは間違いなく国際収支不均衡の一端を担っており、「グローバルインバランスの是正に寄与する責任がある」という指摘は的外れとはいえない。

貿易黒字をもたらしたユーロ安と生産性改善

金融危機後、EU外に対するドイツの貿易黒字が急増した要因は何か。一般論として貿易黒字が増える理由は、①生産性改善に伴うコスト抑制(それによる競争力改善)、②通貨安、③不況による自国の輸入急減などが考えられる。結論からいえば、ドイツの場合は①と②だと考えられる。

わかりやすいのは②である。実際、金融危機を経てユーロのREERはピークの2008年3月からの5年間(~2013年3月)で13.95%も下落した。同期間の1ユーロは対ドルでは1.60ドル弱から1.30ドル弱へ、対円でいえば160円弱から120円強へ下落した。これだけの通貨安はドイツ輸出産業にとっては大きな追い風になったと想像する。

しかし、近年のドイツ貿易黒字の拡大、ひいては経済の復活をもたらした要因としては①も必ず指摘される。厳密には2000年代前半にゲアハルト・シュレーダー政権の下で実施された労働市場改革(いわゆるハルツ改革)がメルケル政権下で花開いたというものだ。同改革についてここでは詳述しないが、労働時間貯蓄制度導入による柔軟な労務管理や一連のハルツ改革(解雇規制緩和、低賃金労働者の拡大、失業給付削減など)を通じて、「安価な労働力」を大量に創出できたことが対外競争力の改善につながったとの分析は多い。

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