大暴落1929 ジョン・K・ガルブレイス著・村井章子訳 ~現在と比較しながら方向や矛盾を考える
サブプライム危機から発したアメリカの金融危機で、これは1929年の株価大暴落、それに続いて起こった世界大恐慌の再来ではないか、という声があちこちから起こっている。
では1929年恐慌とは何であったのか。このことを理解するために書かれたのが有名な経済学者であり、ケネディ政権にも近かった著者によるこの本である。54年に出てから半世紀以上経つが、やさしく、そして興味深く書かれているから読んでいて飽きない。
日本語訳は徳間書店から小原敬士訳と牧野昇監訳が二回出ているが、それらに比べ今回の新訳は正確で、読みやすい。
20年代にもアメリカでは不動産投機が盛んで、フロリダなどで地価が暴騰したが、それに続いて株式投機が盛んになり、株価は急騰した。これは80年代の日本のバブルにも共通している。
そしてFRBは金利引き下げ政策を採っていたが、これは2000年代のアメリカと同じである。
この株式ブームでは個人投資家が投機化するとともに、会社型投資信託が大衆の資金を集めて、株高をあおった。もっとも、年金基金などによる株式所有の機関化は進んでおらず、株式投機の主役は個人であった、という点が現在とは異なる。
なにより大きな違いは、当時のアメリカは債権国であったが、現在のアメリカは巨額の債務を抱えた借金国。20年代のアメリカはイギリスから世界経済の主導権を奪って覇権国になっていたが、現在はアメリカの一元的ドル支配が崩れかけている、という点が大きく違う。
銀行が証券子会社を通じて株式業務をしていたために大恐慌につながったという反省から大恐慌のあと、アメリカでは銀行と証券の分離が行われたが、現在は逆にモルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスなどが銀行持ち株会社になるという方向をとっている。
このように1929年恐慌と現在のサブプライム危機を比較しながら、この本を読んでいくことを奨める。
かつてガルブレイスは『バブルの物語』という本で、17世紀のチューリップ恐慌以来、人間の富への欲望と過信がある限りブームと暴落を繰り返すとし、1929年恐慌もそのひとつとしてあげたが、しかしそういってしまったのでは、せっかくの読者の努力も水の泡となる。
そうではなくて、20年代と現在とを比較しながら、世界経済がいまどういう方向に進んで行き、どういう矛盾を抱えているか、ということを考えることが必要だが、この本はそのための手がかりを与えてくれる。
John Kenneth Galbraith
1908~2006年。カナダ出身の経済学者。時代感覚にあふれた旺盛な執筆活動で世界的なベストセラーを量産。『アメリカの資本主義』で拮抗力、『ゆたかな社会』で依存効果、『新しい産業国家』でテクノストラクチャーといった新しい概念を生み出した。
日経BP社 2310円 309ページ
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