高血圧薬の不正疑惑 薬事法違反に発展か ノバルティスの販促活動は誇大広告の疑い

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国益喪失の重大問題

ところが、臨床試験の結果を盛り込んだ京都府立医科大学および東京慈恵会医科大学教授による論文は、事実関係に誤りがあることやノバルティス社員の試験への不適切な関与を理由に相次いで撤回され、その根拠が失われてしまった。前出の中間とりまとめでは、「ディオバンを使用する患者および国民全体に不安を引き起こしている」「わが国の臨床研究に対する信頼性を大きく損ねるなど、国益の喪失にもつながる重大問題」と述べられている。

批判の高まりに直面したノバルティスは、全世界の事業責任者であるデビッド・エプスタイン社長が来日。10月3日の記者会見でお詫びを表明したが、売り上げの一部の返還については、「厚労省の中央社会保険医療協議会(中医協)で議論されると聞いていることから、現時点では見解は申し上げられない」(ノバルティス広報部)という。

だが、不適切なPRを通じて広まった処方は容易に改まらない。ある50代男性は高血圧の治療で2年前からディオバンを処方されている。処方開始の際、「脳卒中や心不全の予防効果があるので出しておきます」と医師から言われた。そして今回の不祥事を疑問に感じて医師に確認したところ、「(脳卒中を減らすのに必要な)血圧を下げる効果があるのは確か」などとはぐらかされた。本人は現在も医師を信用して、服用を続けている。

ディオバンの日本での年間売上高はピーク時には1000億円を超えており、ノバルティスにとって稼ぎ頭の商品だ。その薬価は、同じく降圧効果のある利尿剤などと比べて高い。そのことから、医療費の無駄につながっている可能性がある。

ノバルティスは長年にわたる不適切なセールスで、莫大な利益を得ていた可能性が高い。が、現在の保険医療制度では、今回のような不正行為を想定しておらず、不当利得を返還させるルールがないのが実情だ。

厚労省によれば「誇大広告による行政処分や刑事罰の例はほとんどない」(医薬食品局)が、ノバルティスに何のおとがめもなし、ということはなさそうだ。もっとも、誇大広告による罰則は「2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金またはその併科」にすぎない。薬価の引き下げも不可避だが、これまでの荒稼ぎと比べれば微々たる額だろう。

週刊東洋経済2013年10月19日号

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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