日本にも「スポーツ省」を

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ドクター/平石貴久

 かつて、ミュンヘン五輪で米国の水泳コーチが「最後の1センチ、最後の1秒は、何を食べてきたかで決まる」と名言を残しました。当時医者になりたての私は、これほど意味深い言葉であったとは知る由もありません。しかし、スポーツ医学や栄養学を学んで、さらに米国でスポーツドリンクが発売されると、スポーツは科学だと実感しました。

北京五輪の日本選手団の予想外の成績に、金メダル選手の育成に日本はもっと積極的になるべきだ、という世論が聞かれました。確かに、今までの日本スポーツ界は企業頼みでした。ようやく野球だけでなく、Jリーグやバスケットのbjリーグ、ラグビーのトップリーグなど、スポーツのプロ化時代がやってきました。しかし、中身は企業内の選手が毎年プロ契約を更改していることが多く、企業におんぶに抱っこ状態。引退後に所属企業に勤められればまだよいほうで、年金制度が整っているのは競輪ぐらい。スポーツ選手は使い捨て、と言われても仕方ありません。

企業スポーツの活動費は、その企業の業績によって大きく左右され、選手の補強やキャンプ内容も決まります。長い歴史を持つ野球ですら、ファンの夢とは別次元で、活動の縮小はもちろん、廃止や廃部が行われます。大会で優勝した翌年に廃部されては、選手は泣くに泣けません。運営母体は成績に焦り、監督やフロントに責任を負わせます。自治体主体と言われるJリーグでさえも、後援する企業頼みというのが実態です。

たった10人の陸上部でも、運営費は年間で2億円以上。企業は練習用のグラウンドやロッカールーム・クラブハウス・ジムを備え、選手の健康管理や食費、体づくりなど、多くの経費がかかります。チームによっては、本当にプロなのかと疑いたくなるような環境で、そんななかでも選手たちは頑張っています。最近、野球の独立リーグがスタートしましたが、選手の生活は厳しいものでしょう。チームのトレーナーやドクターは地元の整体師や医師のボランティアというのが現実です。

近年、ゴルフやテニス留学も増えてきました。親の負担は膨大ですが、夢があっていいじゃないですか。せめて健康保険面だけでも支援できないものでしょうか?
以前にも書きましたが、日本には、技術開発はもちろん、選手やコーチの育成、練習場、国内外の大会・試合・リーグ、引退後の選手年金などを管理する「スポーツ省」が必要です。そして、支援企業には税金面でバックアップすべきです。一つの会社で全面支援が難しいのであれば、JVのような共同運営はできないものでしょうか?

いまや、選手を使い捨てする時代ではありません。スポーツは新商品開発にもつながり、そこから私たちの健康が改善される可能性もあります。選手の輝かしい成績は私たちの楽しい会話となり、新たな生活のエネルギーにもなるのですから。

ドクター/平石貴久(ひらいし・たかひさ)
1950年鹿児島県生まれ。平石クリニック院長。丸山茂樹、片山晋呉などのプロゴルファーをはじめ、野球、Jリーグなどのトップアスリートやプロチーム、企業や大学のスポーツクラブの健康管理や技術指導を行う。アーティストのコンサートドクターとしても活躍。
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