音楽配信スポティファイ、「お得感」は2兆円?

統計には決して載らないデジタル化の衝撃度

ここで「消費者余剰/生産者余剰」の比率を計算してみると、2兆円/600億円=約33倍となる。

消費者の「お買い得感」は企業の「儲かった感」の30倍以上大きい――デジタル化が進んだ経済は、消費者天国なのだろうか?

一方、1曲いくらという価格体系を採用している従来型企業の場合、多くは「消費者余剰/生産者余剰」の比率が1未満であると考えられる。

それはレコード・CDが再販売価格維持制度によって割引を禁止されていたので、生産者余剰が大きくなっていたと考えられるためだ。

アップルのiTunesは、「デジタル音楽配信サービス」という点ではスポティファイと同じだが、1曲150~250円という昔ながらの価格付けをしている。

NRIの試算では、iTunesの「消費者余剰/生産者余剰」比率は1を下回っている。つまりレコード、CDと同じく消費者の「お買い得感」より企業の「儲かった感」のほうが大きい。

iTunesによるダウンロードの質の向上や、いろいろな端末で共有できるといった顧客体験の向上は、確かに消費者余剰の向上にもつながっているだろう。しかし、限界費用がほぼゼロのコンテンツを1曲いくらで販売することで、それ以上に生産者余剰が多く生み出されていると考えられる。

「曲」を販売するビジネスモデルと「アクセス」を販売するビジネスモデルは、どちらもデジタル化の進展によって登場したものだが、生み出している消費者余剰、生産者余剰の比率にこのような大きな違いがみられる。

今後、消費者余剰の拡大だけが続くのかどうかは予測が難しいが、経済社会の未来を予測するにあたって大事なのは、現に生じている消費者余剰の拡大をどう考えるか、ということだろう。

生活レベルが向上したと感じられるわけ

平均賃金の水準が低下しているなかで、意外な調査結果がある。

NRIが3年に1度行っている「生活者1万人アンケート調査」で、「世間一般からみた自分の生活レベル」をどう感じるかを尋ねたところ、2006年以降、「上」「中の上」もしくは「中の中」とみなす人の比率が高まり、「中の下」「下」とみなす人の比率が下がっているのである。

賃金が上がらないのに、自分の生活レベルが向上したと感じることなど、ありうるのだろうか。

筆者はその感覚の背景に、デジタル化による消費者余剰の拡大があるのではないかと考えている。消費者余剰が拡大しているとすれば、生活実感がGDP統計と離れていくことは不思議ではない。

消費者余剰は、概念としては理解できるものの、各人の支払意思額が不明なため、金額換算することが難しい。企業の利潤として把握できる生産者余剰がGDP統計に計上されるのに対して、消費者余剰はGDPに反映されていない。

スポティファイが生み出している巨大な「お買い得感」は、経済的な価値を計測するための新たな指標の必要性も示しているといえるだろう。

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