音楽配信スポティファイ、「お得感」は2兆円? 統計には決して載らないデジタル化の衝撃度
経済学用語でいえば、消費者余剰と生産者余剰がもたらされている。消費者余剰とは、簡単にいえば「お買い得感」であり、商品・サービスに対して「このくらいおカネを払ってもよいと考える価格と、実際の価格の差」である。一方、生産者余剰とは価格とコストの差、つまり企業の利潤である。「お買い得感」に対して、とりあえず「儲かった感」と呼ぼう。
まず「お買い得感」、すなわち消費者余剰を試算する。
仮に、以前は年間でCDを5枚購入していた人がいるとしよう。CDの値段を1枚3000円とすると、年間1万5000円を支払っていたことになる。
この人がスポティファイの有料ユーザーになると、年間支払額は約1万2000円になる。
CD5枚分=1万5000円を支払ってもよいと考えていた楽曲が約1万2000円で聴けるのだから、この時点ですでに約3000円の「お買い得感」が発生する。さらに気に入った音楽を見つけることができたら、「お買い得感」はもっと増える。
他方、広告主に対するCMスポット販売については、議論の単純化のため広告主が支払ってもよいと考える価格に等しい水準で販売されていると仮定しよう(スポティファイの生産者余剰は発生するが、広告主にとっての「お買い得感」はないものとする)。
そのような前提条件のもとで試算すると、音楽配信の有料ユーザーに対しては約1兆5000億円、無料ユーザーに対しては約5000億円、合計約2兆円の「お買い得感」が全世界で生み出されている、という結果になった。
2018年4月3日、スポティファイは米ニューヨーク証券取引所に上場し、約2兆8000億円の時価総額をつけた。
これは投資家目線の評価だが、スポティファイがユーザーに対して2兆円の「お買い得感」を生み出し、さらに音楽レーベルやアーティストに対して、これまで累計で80億ユーロ(約1兆円)のロイヤルティを支払ってきたことを考えれば、ユーザーやアーティストの目線で見てもスポティファイは十分それだけの価値を生み出している、ということになるのかもしれない。
「お買い得感」は「儲かった感」の30倍
有料ユーザーは無料ユーザーより数が少ないにもかかわらず、「お買い得感」では1兆5000億円対5000億円。これは音楽に対して支払ってもよいと思う額が、有料ユーザーのほうが大きいためだ。
無料ユーザーは年間1万2000円を支払うほどの意思はないが、何かしらの音楽を楽しみたいと思っている層であるのに対して、有料ユーザーの中には音楽に対する支払意思額がとても高い人まで含まれている。
他方、スポティファイは2016年12月時点で約600億円の粗利(全世界)を生み出している。これを「儲かった感」すなわち生産者余剰とみなす(生産者余剰を粗利、営業利益、純利益のどれで見るのかは議論が分かれるが、粗利を用いることとする)。
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