三菱自が「過ちに学ぶ研修室」まで作った理由 JALは「御巣鷹山事故」の教訓を学び続ける

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三菱自動車の新型SUV「エクリプス クロス」。欧州や北米に続き、日本でも3月1日に発売された。今後の成長のカギを握る戦略車種だ(撮影:尾形文繁)

燃費不正問題の影響や販売不振によって2016年度に急落した三菱自動車の業績は、2017年度には売上高が前期比10%増の2.1兆円、営業利益が51億円から950億円へと急回復する見込みだ。4年ぶりの新型車であるコンパクトSUV(スポーツ用多目的車)「エクリプス クロス」は、好調な滑り出しを見せる。他社と比べて手薄な経営資源をSUVとアジア地域などに集中させ、現行の中期経営計画では2019年度に売上高2.5兆円(2016年度比30%増)、新車販売台数130万台(同40%増)と、挑戦的な目標を掲げる。

三菱自動車の益子修CEOは、業績回復が社内の慢心につながらないか懸念する(撮影:尾形文繁)

数字上は、本格的な再生軌道に乗りかけているようにも見える。ただ、益子修CEOは過去の経験から、社内の慢心を警戒する。「人間はちょっとよくなると嫌なことを忘れたがる。それを忘れると、また同じようなトラブルに見舞われないとも限らない。過去を忘れないことと、前を向いていくことを一緒にやっていかないといけない」。

JALも過去の悲劇に向き合っている

そういった状況下で研修室を設置した三菱自動車が「いくつか訪問して、参考にさせてもらった」(山下副社長)という施設の1つが、日本航空(JAL)の「安全啓発センター」だ。1985年に発生し、乗員・乗客520名が亡くなったジャンボ機(JAL123便)墜落事故の機体や遺品などを展示する。

日本航空が2006年に設立した「安全啓発センター」。1985年のジャンボ機(JAL123便)墜落事故の機体や遺品などを展示している。写真は、事故でばらばらになった垂直尾翼(記者撮影)

近年、国内の航空会社や鉄道会社を中心に、過去の事故などの教訓を学ぶ施設を設置する動きが広がるが、その中でも先駆的な施設といえる。ばらばらになった垂直尾翼や事故の直接的原因とされる後部圧力隔壁、衝撃で原形をとどめていない座席、落ちゆく機内で家族に宛てた遺書――。東京都大田区の羽田空港そばにある同センターを訪れると、事故の重みがひしひしと伝わってくる。

同センターの設立は2006年4月。事故から20年以上が経過していた。事故後、多くの遺族が機体残骸の保存・展示を要望していたにもかかわらず、JALは拒否し続けた。JAL安全推進本部の辻井輝マネジャーは「当時、外部にネガティブなメッセージを発信することに抵抗があったのでは」と話す。

転機は2005年だった。管制指示違反や車輪脱落など、深刻な事故につながるおそれがある重大インシデントが相次ぎ、国から事業改善命令を受けて利用客も激減。外部有識者会議からの提言を受けて、施設の開設に踏み切った。

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