ところが任命権者のオバマ大統領は、ローレンス・サマーズ元財務長官の起用を強く示唆した。第1期オバマ政権において、サマーズは国家経済委員会担当補佐官として、経済に弱いオバマの家庭教師役を務めてくれた。クリントン政権では財務長官を務めていたこともあり、文句なしの「大物」である。「身内びいき人事」が多くなり、小粒な人材が多くなってしまった第2期オバマ政権においては、重量級の「サマーズ議長」は一種の箔付けになる、という思惑もあったのだろう。
「ミスターイエレン」と口走ったオバマ大統領
しかるにサマーズは、公職を退いてからハーバード大学の学長を務めていた2005年に、「女性は統計的に、数学と科学の最高レベルでの研究に対してより少ない適性を持つかもしれない」と口走り、辞任に追い込まれた過去を持つ。つまり「女性差別主義者」のレッテルを張られたことのある人物なのである。イエレン支持のフェミニストからみれば、「ありえない」選択肢であった。
こう言ってしまうと身もふたもないのだが、オバマ大統領は金融政策のことなどあまりわかってはいないらしい。この夏、次期FRB議長について言及した際に、「Mr. Yellen」と口走ったこともある。このときはワシントンポスト紙が、「イエレンさんの夫であるジョージ・アカエフ氏(ノーベル賞経済学者)も、FRB議長には立派な有資格者である」という妙なフォローをしたものである 。それにしてもオバマさん、“Dr.”と言っておけば無難だったのに、つまらぬところでボロを出してしまったものだ。
さて9月に入り、シリア情勢をめぐるオバマの優柔不断を契機に、議会情勢はさらに険悪化する。とうとうサマーズは、「私ではとても議会がもちませーん」と泣き言を言って、指名を辞退する破目になった。だったらそれでイエレンが自動的に当確かというと、物事そんなに簡単ではない。すんなり決まりかけていたことで「みそ」をつけると、大事なところで「あや」がつくものだ。次期FRB議長の前途は容易ではないとみる。
まず、イエレンさんの立場になって考えてみよう。オバマ大統領は、自分ではなくサマーズにご執心だった。自分はセカンドチョイス、もしくは議会の反対が少なそうな候補者として、次期議長に担ぎ出されようとしている。ご本人にとって愉快な話ではないだろう。
そもそもハト派の急先鋒であるイエレンに対し、サマーズは金融政策ではややタカ派寄りのスタンスであった。サマーズがダメだからイエレンで、というのは少々ご都合主義的ではないか。少なくとも周囲はそう受け止める。「大統領の支持が十分ではない議長」は、15人のFOMCメンバーをうまく引っ張っていけるのか。あるいはワシントンにおける行動に限界があるのではないか。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら