日本で密かに進む「オールド企業」の生産革命 これこそが日本経済の成長源となる

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ラクスルの売上高は伸び盛りだ(16年7月期時点で50億円)。だが、本当に重要なのは、ラクスルのようなベンチャー企業によって日本経済全体の生産性が飛躍的に向上するかもしれない点である。

トラックの積載効率が上がれば、人手不足の問題が和らぐだけでなく、賃金も上がるかもしれない。なぜなら、効率が上がれば、ドライバーが1回当たりの配送で稼ぎ出す売り上げが増えるからだ。

中小企業もネット通販に乗り出しやすくなる

ラクスルと契約した運送会社は、空いた車両を活用するので積載効率を上げることができる。これにより、中小・零細の荷主から、これまで以上に安い運賃で配送を請け負うことができている。

ラクスルは、ネット印刷で最大90%のディスカウントを行っている。ハコベルの仕組みはネット印刷と基本的に同じなので、同様の価格破壊を起こせるかもしれない。価格破壊の結果、さまざまなコストが下がれば顧客の中小・零細企業はより多くの資金を事業拡大や賃上げに振り向けられる。

また、ラクスルのような物流ベンチャーのおかげで、販路や店舗スペースを確保するのに苦労している中小・零細企業も、ネット通販に乗り出しやすくなるだろう。

ラクスルの市場占有率はあまりに小さく、日本経済に直接与える影響はまだ微々たるものだ。宅配市場の9割は、ヤマト、佐川急便、日本郵便の3社が押さえている。だが、ラクスルのようなベンチャーが現れたことで、物流業界にはすでに波紋が広がっている。

ラクスルが最大手のヤマトを変えつつあるのだ。昨年、ラクスルと資本提携したヤマトHDの山内雅喜社長は、提携の狙いをこう語った。自前主義は終わらせ、革新的な手法を取り入れねばならない、と。

日本経済復活には、こうした事例の出現がこれから何万と必要だ。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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