五木寛之「孤独死は恥ずかしいことではない」 日本人よ、根無し草のように孤独であれ
――詩や歌も、音になった瞬間にこそ、言葉の力があった。
中世ヨーロッパの神学者のエピソードに、自分の書斎に勝手に入った甥っ子が、悪魔のように声を出さず、蔵書を読んでいて驚いたという話があります。
元来、本は声に出して読むものだった。『聖書』や孔子の『論語』だって、『歎異抄』だって「先生がこう仰ってました」って話ですから。『平家物語』だって琵琶法師が歌ってたわけです。
本来は、文字より言葉が先にある。文字は、音を記録するための便宜上の機会です。
あくまで活字は記録手段として生まれた。「書く」という作業と「語る」という作業でいえば、僕は「語る」という作業のほうが本来的に大事だと思ってるんです。
ですから、僕は講演やインタビューを「作家の余技」とかは全く思わない。自分の表現の場としての大事の場だと思います。
よき人生を送るために「自分なりの価値観」を持とう
――高齢化が進み、長生きができる時代にはなりました。一方で、生涯未婚率が過去最高になり、2035年には人口の半分が独身になると言われています。
教育水準が上がってくると、結婚率は下がります。個の独立・確立というか、自分なりの生活をしたいという思いが実現できるようになった。
――結婚しないことも人生の選択肢の1つになりつつある。
戦前のような観念的な偏見は未だにあります。「いい年して嫁にも行かない娘がいると恥ずかしい」みたいな親がいっぱいいますから。
それでも、古い考えは音を立てて崩れつつあります。「結婚しない選択」も当然ありますよ。結婚をしないで子どもを産んでもいい。
少子化問題を言う人もいますが、そもそも子どもを産んで、育てやすい環境ではない。保育園の待機児童問題など、社会制度の問題があります。
アメリカやフランスでは、無痛分娩が普通のお産の半数以上になっているそうですね。
かつては「出産の苦しみを乗り越えるからこそ、母は偉大」と説かれていました。「痛みをこらえて、あんたを産んだんだ」「お腹を痛めて産んだ子」という表現もあります。
でも、苦痛が代償になって愛情が生まれるという発想は、歪んでいるようにも感じられます。
――有意義な人生を送るために、ひとりの人間として「個」を確立するために、どうすれば良いでしょうか。
それが、なかなか難しい(笑)。
「自分にとって、よい生き方」は、あくまで「自分にとって」です。人それぞれ違いますから。「自分なりの価値観」を持つことが一番大事かもしれません。
わかりやすいのが、夜寝る時の姿勢です。